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 「ナンジャモンジャゴケ」という奇妙な名前は、発見当初その所属が不明だったことに由来します。当時研究に用いられた材料では、生殖器官や胞子体という分類上の手がかりとなるべきものを欠いており、また、その配偶体の構造はこれまで知られていたコケ植物とはとても変わっていたのです。例えば、苔類の新種として発表されましたが、本種をもとに新属、新科、新目が提唱されたことはいかに変わったコケであるかを示しています。

 ナンジャモンジャゴケTakakia lepidozioides S.Hatt.& Inoue
は冷涼な地域に生育し、これまで日本、台湾、ヒマラヤ、ボルネオ、北米西北部に隔離分布することが知られています。ナンジャモンジャゴケ属にはもう1種、ヒマラヤとアリューシャン列島に分布するヒマラヤナンジャモンジャゴケがあります。ナンジャモンジャゴケが発表された5年後、当時ヒマラヤの苔類を研究していた研究者が19世紀中ごろにヒマラヤから苔類の一種として発表され、その後藻類とされていたものをナンジャモンジャゴケの別種として発表しました。
 
 
 現在までにナンジャモンジャゴケについて50編を越す論文が発表されました。なぜこれほどナンジャモンジャゴケがコケ植物研究者の関心を集めたのでしょうか。前述したように所属不明ということが、謎解きのように研究者の好奇心を駆り立てる原動力になったことは容易に想像できます。そして、ナンジャモンジャゴケに見られる形質がコケ植物の中では原始的特徴を示すと考えられ、本種を調べることがコケ植物や陸上植物の起源を解く糸口になるのではないかと期待したのでしょう。

 
原始的特徴の一例をあげれば、コケ植物の造卵器は通常一箇所に集合して形成され、体の中に埋め込まれるか、苞葉や花被と呼ばれる特殊化した葉や側糸と呼ばれる糸状の構造物などにより保護されますが、ナンジャモンジャゴケでは造卵器は単独で茎の上に散在し、特殊化した保護器官を欠いています。
 

 1990年代になって、ヒマラヤナンジャモンジャゴケの雄植物と胞子体がアリューシャン列島と中国で相次いで発見されました。胞子体の構造はこれまで知られているコケ植物のものとは異なる、とてもユニークなものでした。

 
ナンジャモンジャゴケを日本で最初に発見、研究、発表した服部新佐、井上浩両氏は国立科学博物館の初代、二代目のコケ植物担当の研究者であり、当館にはタイプ標本も所蔵しています。

 
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