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■ 開催のごあいさつ

 本共同企画展では、南フランスを舞台にした「昆虫記」の虫たちとそれらを対象にしたファーブルの研究を紹介するとともに、その後の100年間になされた昆虫学ならびにその関連分野の研究とその応用技術の進展と現状を、「昆虫記」との関わりのもとに展示、解説することを目的にしてます。とくに、後者がこの共同企画展のハイライトであり、そこでは「昆虫記」からは窺い知ることができないほど発展した理論や技術など、一世紀を経た今日まで脈々と受け継がれてきたファーブルの研究の"科学的遺産"を紹介します。

 ファーブル(Jean Henri Fabre; 1823-1915)の「昆虫記(Souvenirs entomologiques)」第1巻の出版は1879年であり、最後の第10巻が刊行(1907年)されてからほぼ100年になろうとしています。日本ではこのシリーズが早くから注目を集め、大杉栄による最初の翻訳(1922年)を皮切りに数多くの翻訳本が出版されました。
 ファーブルの研究手法は、緻密な観察と巧妙に計画された実験によって得られた事実のみから、 "虫"たちの習性の意味を理解しようとするもので、このような徹底した実証主義が「昆虫記」の全編に貫かれています。その文体は、彼の目の前で繰り広げられる"虫"たちの"振る舞い"を淡々と描写したものではなく、優れた表現力と感性豊かな詩情にあふれたものであり、今なお瑞々しい輝きを失っていません。彼の手がけた研究の多くは、これらの書物に感銘を受けて研究者への道を進んだ多くの専門家やアマチュア研究者、自然愛好者、写真家などによって、直接的あるいは間接的に引き継がれ、この100年の間に飛躍的な発展を遂げました。
 ファーブルはまた教育者としても優れた業績を残し、生物学のみならず、物理学、化学、数学、地理学、農学、工学など様々なジャンルの教科書と、これらの普及書、啓蒙書を合わせて100編近く出版しました。これらの一部も日本語に翻訳され、また彼自身の伝記本の出版も相次いでいます。

 わが国で、ファーブルの著作がこれほど広く受け入れられたのは、これら著作物の科学的水準の高さとその文学性豊かな筆致とともに、行間ににじみ出た彼の思想や自然観に多くの日本人が共感を覚えたことによります。さらに、彼が生涯を通じて恵まれない経済的状況の中で、研究にひたすら情熱を傾け続けたことも、読者を魅了する要因のひとつになったと思われます。

 "自然はなれ"や"理科ばなれ"が社会問題化しているわが国にあって、ファーブルの業績と自然観を今一度振り返るとともに、この100年間における昆虫学とその関連分野の研究の進展と現状を概観することは、この分野に専門的な関心のある人はいうに及ばず、一般の人々が昆虫や自然に興味を抱き、さらにそれをより深めるための大いなる手助けとなることでしょう。
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