微細藻類の標本形態と関連資料
微細藻類の標本は様々に形を変えます。それぞれについて、保存を適切に行うことが必要です。
1. 採取された原標本
プランクトンネットによって採集された浮遊藻類や、河川・湖沼の石や泥の上から採集された付着藻類などは、ホルマリンやエタノールなどの固定液を用いて保存します。固定液は形が崩れないように組織を固め、腐敗しないようにするために入れます。
2. 処理
珪藻や渦鞭毛藻類など固い殻を持つグループは、殻の形や模様を詳しく見るために、体の柔らかい部分を酸で溶かし去るための酸処理を行います。この処理は、目的によって、丁寧な処理をしたり強い処理をしたりと使い分けます。そのため、処理を行った後の標本も原標本とは別に保存することが必要です。
3. プレパラート作成
顕微鏡観察を行うためにはプレパラートを作成します。プレパラートには、水をたらしてカバーグラスをかけただけの、一時的に観察するためだけの一次プレパラート、乾燥を防ぐためにグリセリンゼリーなどの封入剤を使った半永久プレパラート、ほぼ永久的に保存できる高屈折の封入剤を使った珪藻用の永久プレパラートなどがあります。当館では半永久プレパラートは参考資料として保存し(写真上)、永久プレパラートは標本として保管しています(写真下)。
4. スケッチ
ソフトアルジェとよばれる殻を持たない柔らかい藻類の多くは、固定液を入れていても保存中に形が崩れてしまうので、スケッチや写真によって記録することが重要です。スケッチは対象を詳しく観察し全体を把握しながら行う必要があります。微細藻類を同定するためには、細かな特徴をとらえたスケッチがとても有用です。そのため、微細藻類ではスケッチは標本と同じような命名規約上の効力を持っています。私たちは、これらスケッチについても、標本と同様に大切に収蔵保管しています。
-画像は渡邊真之 微小藻スケッチ集から
5. 写真
珪藻などの規則的な精細な模様を持つ微細藻類は写真が有用です。スケッチと同様、写真も標本と同じような命名規約上の効力を持っています(最新の命名規約では、珪藻のように標本として保存できるものはスケッチや写真を基準標本とすることはできなくなりました)。微細藻類研究の初期には、写真撮影にガラスの表面に感光剤を塗った写真乾板が使われていました。
-画像は奥野春雄氏 珪藻LM写真乾板コレクションから
古い論文では印刷が悪く、基準標本の画像が不鮮明なことがありました。そのような場合でも、写真乾板やフィルムを確認すると、詳しい特徴が分かることがあります。写真乾板やフィルムも大切に保管することが重要です。