体長は12m以下であり,頭骨は比較的幅広く偏平である.上記の固有の形質のほか,Wada et al. (2003)に示した頭骨にみられるたくさんの形質状態の組み合わせをもつナガスクジラ属鯨類は,本種をおいて他にない.特に,本種では上顎骨の上行突起は後端に向かって幅広くなるが,B. edeni ではそれは全域にわたって細く,鼻骨や前上顎骨のために大きな空間を与えていること,また本種の前頭骨は頭頂部で狭い帯状部を露出させているに過ぎないが,B. edeni では前頭骨は上顎骨上行突起の後方とそれらの間に広く露出し,低いが目立った隆起をつくることなどが注目される.椎骨式と指節骨式はそれぞれ,頚椎(7) +胸椎(13) + 腰椎(12) + 尾椎(21) = 53,4手根骨と4中手骨のほかに指I-5,指II-7,指IV-6,指V-3である. 本種の外観はB. physalus (ナガスクジラ)に似ているが, B. brydei に(おそらくB. edeni でも)顕著に認められる副稜線は認められなかった.ヒゲ板の大きさ,形,色および枚数は B. physalus のものとは大きく異なり,最も長いヒゲ板の幅に対する長さの割合,1.22±0.15は南極海産のB. physalus の1.48±0.11よりもずっと小さい.ヒゲ板の色はB. bonaerensis (クロミンククジラ)のものとそっくりで,ヒゲ列の場所により異なり,左右不対称を示す.
ミトコンドリアDNAの調節領域全長の塩基配列では,異なる海域の3頭の B. omurai の調節領域の長さはいずれも938塩基で,個体間の違いは4-5塩基にすぎなかった.B. omurai と他の同属種の間の塩基の違いに関しては,別種と承認されているB. borealis とB. brydei の違いをはるかに上回っている.我々の分子解析はB. omurai をB. borealis/B. brydei/B. edeni グループから分離し,B. edeni をB. borealis/B. brydei グループから分離する結論となった.
さらに,我々はB. edeni のホロタイプ(GM223,インド博物館,コルカタ),Sidhi島標本(インド博物館)およびSugi島標本(RMNH4003,ナチュラーリス国立自然史博物館,ライデン)の頭骨が先に述べた固有の形質を共有することを確認している.すなわち,B.
edeni の頭骨では上顎骨の上行突起が細く,広く露出している前頭骨上に上行突起の台座のように見える隆起が認められることである.この特徴は他のどのナガスクジラ属鯨類にもみられない.これらの骨学的知見は分子からの知見とともに,B. brydei,B.edeni およびB. omurai がそれぞれ別個の種であるとする我々の解釈に確かな裏づけを与えている.
これらの標徴形質に基づいてさらに多くの B. edeni やB. omurai 標本が世界中の海や既存の博物館標本の中から続々報告されることが期待される.