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骨を読む。

坂上 和弘

 「虎は死して皮を残し、人は死して名を残す。保険に入っていれば金を残す」とは小説家吉行淳之介氏の言葉です。もちろん、人が亡くなるとき、「名」や「金」以外にも沢山のものを残します。でも、その人だけの、その人にしか残せないものって何でしょうか?

  実は、皆さんの体内にある「骨」は何十年、何百年、場合によっては何千年と残る、自分だけの「もの」なのです。

 「骨」なんてみんな同じでしょ、と思われるかもしれません。とんでもない、骨はその人が過ごしてきた歴史や個性が書かれた伝記のようなものです。
顔の個性は骨にも表れています
例えば顔の個性は骨にも表れています
 骨が教えてくれることは、男性か女性か、何歳で亡くなったのか、体格はどうだったのか、どんな顔つきだったのか、どのような病気にかかったのか、どういった原因で亡くなったのか、妊娠経験はあるのか、どのような座り方をしていたのか、右利きか左利きか、などなどです。


 ひとりひとりの人骨を読み解くことが、人類進化の過程や日本人の形成など大きな歴史を紐解くことにもつながります。

 骨を読むことは、なにも縄文時代人や江戸時代人といった昔の人骨に限定されているわけではありません。意外と知られていませんが、今の日本人の骨もよく発見されています。こういった人骨は警察が取り扱いますが、事件の可能性があるものでも年間200件ほど発見されています。  現代の人骨を読み解く。言い換えると、自然人類学の手法を用いて犯罪捜査や身元不明人の識別に貢献する。この学問を「Forensic Anthropology(法医人類学)」と言います。

 私は自然人類学者であると同時に日本では片手ほどしか存在しない、法医人類学者でもあります。
法医学教室で扱われる現代の日本人人骨
法医学教室で扱われる現代の日本人人骨
 人骨から読み取ったことを警察や法医学教室などに伝える。そういった情報が殺人事件の解決や身元不明者の識別につながるケースもあります。また、これまで日本の人類学者がほとんど経験したことがないケース、例えば「指詰め」や「銃による損傷」など、を扱うことで、昔の人骨から新しい情報を引き出すことができるようにもなります。

 故き「人骨」をたずねて、新しき「人骨」を知る。そんな日々を過ごしています。

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坂上 和弘(さかうえ かずひろ)

坂上 和弘(さかうえ かずひろ)

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