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頭のかたちは体の大きさと関係があるの?脳頭蓋と体幹・体肢骨の共変動性

溝口 優司

我々の鼻の形や目の形など、さまざまな形態的な形質(遺伝子に支配されている特徴)は、進化過程のどの時点でどのように生じて、その先祖集団に固定されたのか。この原因と過程を明らかにすることが私の研究の最終目的です。

手始めに分析対象に選んだ形質は頭の形です。頭を上から見た時の形が長いものを長頭、短いものを短頭と言います(図1)。この頭の形は、同じ集団であっても、数十年から数百年の間に変化することが知られています。頭の横径(頭蓋最大幅)を前後径(頭蓋最大長)で割り、それに100を掛けたものを頭蓋長幅指数(図2)と言いますが、この指数が大きくなる場合を短頭化現象、小さくなる場合を長頭化現象と呼んでいます。そして、実際、日本でもこのような現象が存在したことが確認されています(図3)。しかし、なぜこのような変化が起きるのか、その原因はいまだによく分かっていません。

そこで、まず、この現象の原因を突き止めるための基礎的な研究として、頭蓋最大長と最大幅が全身の骨の色いろな計測値とどのように関係しているのかを、主成分分析といわれる統計学的方法を使って調べました。もし頭蓋最大長や最大幅に強く関係している体の部分を特定できれば、その体の部分の機能的な意味から頭の形の変異の原因を推測できる場合もあるかもしれない、と考えたからです。

結果として、この一連の分析を終えるまでに18年もかかってしまいましたが、明らかになったのは次のような事実です。

1) 男女共通して体幹・体肢骨の計測値と有意な関連があるのは、いつも頭蓋最大長で、頭蓋最大幅は関連を持たない。

2) 頭蓋最大長が特に強い関連を示すのは、背骨の大きさ(椎体の前後径)、胸郭の前後径、上腕骨の太さ・長さ、骨盤の幅と高さ、大腿骨の太さ・長さ、脛骨の太さ・長さである。

3) 椎骨椎体、上腕骨、骨盤、大腿骨、脛骨の代表的な長さ・太さは互いに有意に関連しながら、頭蓋最大長とも有意な関連を持つ(図4)。

以上の結果から、少なくとも、頭蓋最大長の変異の一部は、全身の骨格筋の発達状態あるいは体の大きさの変異と関連している可能性が高い、という結論に至りました。

しかし、この結果はあくまでも1つの集団の中での個体変異に基づくものです。短頭化・長頭化現象は異なる時代の集団の間の変化ですから、即座に骨格筋あるいは体の大きさの時代的変化が短頭化・長頭化現象の原因の1つである、と言うことはできません。今後さらに、集団間変異や環境因子との関連について分析を行いたいと思っています。

溝口 優司(みぞぐち ゆうじ)

溝口 優司(みぞぐち ゆうじ)
(退官)

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