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ツリフネソウ属の多様性をさぐる

秋山 忍
吊るした舟を連想させるツリフネソウの花は複雑なかたちをしています。
しかも種によってそのかたちが大きく異なります。ツリフネソウ属は世界に850種くらいあると推定されていますが、花のかたちの多様さは種の系統分化と関係するのでしょうか。興味深い問題だといえます。
しかしながらツリフネソウ属での種の分化や花の多様さについての解析的な研究は遅れています。
多くの興味深い種の産地がアフリカ、ニューギニア、インド、ヒマラヤ、中国奥地などに限られ、これまで研究ができなかったことも大きな理由です。
ヒマラヤと中国奥地のツリフネソウ属植物の花の形態を分析して、その多様性を掌握するとともに、花以外の形態、染色体などの特徴を調べ、類似種からの異同などを明らかにし、類縁性を考察し、分類体系を定める研究を進めています。
Impatiens tongbiguanensis

花の形態

ツリフネソウ属の花は立体的でおし葉標本から復元するのが困難です。花弁だけでなく、萼片も花のかたちを決める重要な役割を担うという特徴があります。野外で花をつけた植物を採取して研究室に持ち帰り、花を解剖し図化していきます。

左:研究の途上で多くの新種が発見されました。図はそのひとつ、中国云南省で発見されたImpatiens tongbiguanensis

船型の下萼片をもつ種 花型

これまでの観察結果から、ヒマラヤと中国奥地のツリフネソウ属の花の多くは、ニューギニアのツリフネソウのように平面的に広がることなく、奥行きのある花型をもつことがわかりました。下萼片のかたちを基準にすると3つの型に類型化されました。つまり、船型、ラッパ型、袋型です。
花序の型 花序

ツリフネソウ属には花序にたった1花を出す種から多数の花をつける種まであり、その分枝パターンは9つの型に区分されました。
染色体 染色体

ツリフネソウ属には数多くの染色体数が認められることが分かっています。ヒマラヤと中国奥地の種には、 2n=14(15), 18(19), 20, 28の染色体をもつ種があることが判明しました。このうち2n=18(19)はこの地域の種に集中する染色体数です。また2n=18(19)の染色体数をもつ種のほとんどが、1対の染色体が他の染色体よりも著しく大きくなるタイプ(bimodal型)でした。
系統分化と起源の地 系統分化と起源の地

塩基配列を分析し、その情報から系統樹を作成しました。この系統樹からは、ヒマラヤから中国奥地にかけての地域がツリフネソウ属の起源の地であることが支持されました。

ヒマラヤから中国奥地には、この地域で多様化したグループのほかに、東アジアから北半球温帯、東南アジア、ニューギニア、インド、アフリカへと広く分布を広げさらに多様化を増したグループの種が並存していることが判明しました。また、花序の型と染色体数とが系統分化とよく相関しました。
展示ポスターはこちらから
秋山 忍(あきやま しのぶ)

秋山 忍(あきやま しのぶ)

(退官)

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