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ねんきんはおもしろい!-性のからくり-

萩原 博光
細胞性粘菌の子実体
細胞性粘菌の子実体
私は、ねんきん(粘菌)を研究しています。学校の教科書に登場する粘菌には、2つのグループがあります。1つは、真正粘菌で、変形菌とも呼ばれています。もう1つは、細胞性粘菌です。2つのグループの共通点は、生活環においてアメーバ状細胞で生活する栄養成長期と胞子を作って休眠する子実体形成期があることです。大きな違いは、真正粘菌は無数の核を持つ巨大なアメーバに成長しますが、細胞性粘菌のアメーバは決して多核にならないことです。その他にいくつも違いが見られ、系統的に異なるグループと考えられています。私は、細胞性粘菌を研究しています。では、これから細胞性粘菌の性のからくりについて紹介しましょう。
二つの性 誰もが知っている性のからくり

ヒトには2つの性があります。男性と女性、つまりオスとメスの2つの性です。メスの配偶子の卵子にオスの配偶子の精子が入り込んで両性の核が合体することを「受精」といいます。私たちがよく目にする、身近な動物や植物の多くは、明らかに形が違うオスとメスの配偶子を作り、受精によって生命が引き継がれていきます。
微細藻類ミカヅキモの接合 原生動物ゾウリウムの接合 微生物世界の性のからくり

微生物の世界では、2つの性を持つにもかかわらず、オスとメスを区別できない生物がたくさん知られています。オスとメスの区別がない場合、両性の核が合体することは、受精とはいわず、「接合」といいます。接合は、原生動物や微細藻類などにおける性のいとなみです。
キノコの菌糸の接合 キノコの4つの性 キノコの性のからくり

遺伝学的研究によく使われているキノコのウシグソヒトヨタケは、2つでなく、4つの性を持っています。オスとメスの区別がないため、性の異なる体細胞の核の合体はやはり接合といいますが、4つの性のからくりがどのようなものか想像できますか。2つの性のからくりは1対の遺伝子の存在で説明でき、4つの性のからくりは同様にして2対の遺伝子の存在で説明できます。多くの種類のキノコが4つの性を持ち、このからくりは「四極性」と呼ばれています。
細胞性粘菌Dictyostelium giganteumの4つの性 細胞性粘菌の性のからくり

細胞性粘菌では、別のタイプの性のからくりが見つかっています。複雑というのか、単純といったほうがよいのか、いいかげんというべきかわかりませんが、私たちの常識からかなり外れています。2つ以上の性がある場合、相手の配偶子が自分の性と異なる配偶子であれば接合してしまいます。4つの性がある場合を、キノコの四極性と比べてみると違いがよくわかります。このような性のからくりは「多極性」と呼ばれていて、ゾウリムシのある種類で知られていました。実は細胞性粘菌では、種類によって1つの性しかない場合、2つの性がある場合、4つの性がある場合、5つ以上の性がある場合が知られています。そのからくりの解明は、性の進化を考える上で興味深いテーマです。
細胞性粘菌Dictyostelium monochasioidesの2つの性 細胞性粘菌Dictyostelium purpureumで確認された7つの性
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萩原博光(はぎわら ひろみつ)

萩原 博光(はぎわら ひろみつ)

(退官)

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