みなさんが今までに見てきた景色のどこかには、きっと地衣類が生えていたことでしょう。
視界に入っていても気づかれることなく、ただ静かに、木に、岩に、土の上に、彼らは生えているのです。しかし、そんな地味な姿をした地衣類には驚くような「ふしぎ」がたくさん秘められています。私の研究は、この地衣類のふしぎを探ることです。
ふしぎ1 共生して形や性質が現れる
地衣類は、菌と藻が共生して初めて地衣類の体や特有の化学成分などを作り出します。
私は遺伝子レベルで菌と藻の密接な関係の謎について解析を進めているところです。
菌と藻の相性によって環境耐性が異なることも分かってきました。
地衣体切片
地衣類が作り出す化学成分の一種
ふしぎ2 空気のよごれを教えてくれる
ウメノキゴケ
Parmotrema tinctorum (Nyl.) Hale
地衣類は、南極や砂漠などの厳しい環境でもたくましく生育しています。しかし、大気汚染などの環境変化には敏感であり、多くの地衣類が衰退してしまうこともあります。
一方で、この性質を利用すると地衣類を大気汚染の指標として使うことができます。これまでの私の研究で、ウメノキゴケの分布が大気汚染の変遷を反映していることを明らかにしました。
1972年にコンビナート周辺地域で消滅していたウメノキゴケは、
大気汚染が改善されると回復した。その一方で、幹線道路沿いでは消滅地域が拡大している。
ふしぎ3 子嚢菌類の約40%が地衣化
子嚢菌類の約40%は藻類と共生して地衣類となっています。
担子菌類の地衣類も知られています。地衣類は全陸地の約8%を覆っていると見積もられており、
生態系の中では土壌の形成など重要な役割を担っています。
菌類が様々な場所に適応して進化してきた背景には“地衣化”が大きく貢献しているのです。
私はサルオガセ属の分類に取り組んでいます。日本には38種があることを明らかにしましたが、本属は温帯だけでなく、
南極などの寒い地域や熱帯地域にも分布しています。一つの属の中で、種がどのようにして地球上の様々な場所に適応し、
多様化してきたのでしょう?
興味は尽きません。