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生き物との関わりが形作る植物の多様性

奥山 雄大

かけがえのない多様性
普段あまり考えることはないかもしれませんが、私たちヒトを含めた陸上の生命は植物の多様性に支えられています。ちょっと極端ですが、植物の多様性が半分しかない世界を想像してみましょう。パンやラーメン(コムギ)は食べられますが、ご飯やお餅(イネ)は食べられません。お茶(チャノキ)は飲めますが、コーヒー(コーヒーノキ)は飲めません。カレーライス(チョウジ、ウコン、ナツメグなど)はひどい味になるでしょう。恐ろしいインフルエンザやガンの特効薬(トウシキミ、カンレンボク)も発見が数十年は遅れるでしょう。こんな世界は誰だって嫌ですね。私はヒトの代表として、どうやったら植物の多様性を守っていけるのかを考えながら研究しています。
植物の多様性は生き方の多様性
でも植物は他の生命を支えるために多様になったわけでは決してありません。本当は、他の生命を支えるなんてまっぴらごめんです。植物も動物と同様、自分たちの子孫を残すべく必死に生きているのです。だから自分を食べてしまう動物からは身を守るし、必要があれば動物を騙したりもします。特に、自力で移動できない植物にとって、他の生き物との関係はとても重要です。他の生き物と関わりながらのあの手この手の驚くべき生き方の違いが、植物の多様性には表れているのです。

中でも、私は花の多様性に興味を持っています。へんてこな花、小さい花から美しくて大きな花までこれほど多様なのは、花粉を運んでくれる昆虫との関わりが多様であることを物語っているからです。でも、まだまだ多くの植物の種では、どんな昆虫に花粉を運んでもらっているかということさえ分かっていません。花は新発見の宝庫なのです。あなたも花にやってくる昆虫を調べてみませんか?
チャルメルソウとキノコバエ
研究を初めてすぐ、私は幸運にも一つの新発見をしました。それは、日本に13種あるチャルメルソウの仲間の花がどれも、キノコバエという変わった昆虫の仲間だけに花粉を運んでもらっているということでした。不思議なことに、いくつかの場所では2、3種のチャルメルソウの仲間が、お互いに雑種を作らずに共存しています。そこでさらによく調べてみると、チャルメルソウの仲間には、ミカドシギキノコバエという昆虫を花に呼び寄せる種と他のキノコバエを花に呼び寄せる種があって、この違いによって雑種ができないようになっていることが分かりました。

この違いは何によって決まり、またどのようにして進化したのでしょうか?花から放出される匂いの化学分析によって、決まったキノコバエの種だけを呼ぶ物質が明らかになってきました。これから、生物の違いを決める究極の原因である遺伝子(DNA)の分析も行うことで、チャルメルソウの仲間の多様性がどのような仕組みでできあがってきたかを徹底的に解明していきます。

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奥山 雄大(おくやま ゆうだい)

奥山 雄大(おくやま ゆうだい)

多様性解析・保全グループ
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