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鉱物とは何だろう

松原 聰
玉髄:新潟県阿賀町楢山産
玉髄:新潟県阿賀町楢山産
1 石は仲間はずれ?
私たちは環境という言葉をよく聞きます。皆さんは環境、特に自然環境にどんなイメージを持っていますか?「緑豊かで鳥や蝶が遊び、清流には魚が群れをなす」といった環境なら誰も悪いとは思わないでしょう。残念ながらふつうの人達が感じる良い環境イメージには、石など多分入っていないと思います。木々に被われ、さらにその下の土にも被われた石のことは考えもしないのが当然ですが、清流にかかせない石であっても、ことさらそれを環境の一つだと感じないのでしょう。一般的には、自ら動きもしないし、生命もない石は、人間という生き物にとっては、仲間と認めない存在なのかもしれません。
紅石英:福島県いわき市三和町産
紅石英:福島県いわき市三和町産
2 石と生命活動
地球が誕生してからおよそ46億年がたっていると考えられています。
生命の発生は40億年前にさかのぼるとも言われていますが、おそらく生命と地球の接点は、地球の表層部分に限られます。地表に目を向けると、石と生命の戦いと共存が40億年も続いているのです。わかりやすい例をあげると、火山によってもたらされた火砕流や熔岩流が生命を奪いますが、むき出しになった石は水・空気・気温という援軍を得た植物(菌類も含めて)の攻撃で脆くなり、さらにバクテリアや動物の活動も加わり土となって石は破壊されていくのです。こうして土は、破壊から免れた鉱物の一部と動植物などの共同体として環境の重要な構成員となっています。
紫水晶:秋田県大仙市荒川鉱山産
紫水晶:秋田県大仙市荒川鉱山産
3 石にしかできない
人間を含めた生物の栄華盛衰は、太陽・隕石、そして地球自身の変動に左右されてきました。生物がどうあがいても自然環境を変えることはできません。しかし、人間活動によってのみ変えられた悪い環境があれば、それは元に戻すことはできるでしょう。人為的環境悪化か地球がたどってきた環境変化の一つなのかを明らかにしないと、本当の解決にはなりません。
生物の絶滅進化、海水温の変化、年代、地震・噴火などの災害記録、元素(役立つものだけでなく、有毒なものも)の移動などなど地球の環境変遷は、石や古生物(もちろん、化石といわれるくらいだから、石のなかまです)を調べることによってのみわかります。鉱物の研究目的はさまざまですが、私はどんな元素がどんな場所に集っているのか、それがどう移動していくのかに関心があります。新鉱物の研究もこの一つに入ります。
水晶:富山県大山町黒岳産
水晶:富山県大山町黒岳産
4 石とは?
石は生命が発生する前から地球に存在していました。石を構成するのは、鉱物とよばれる固体無機物質の最小単位です。鉱物は原子の集りですが、ふつう原子が規則正しく配列した結晶体です。一つのにぎりこぶし大の石をとりあげても、そこには何種類もの鉱物が数多く入っています。
しかし、にぎりこぶし大の石が大きな塊の一つの鉱物だけになっているものもあります。つまり、鉱物には生物と違って、大きさという概念が存在しません (ナノの世界では、最小の結晶単位があります)。大きさ、形、色など伝統的におこなわれてきた生物の形態的分類方法は、石の世界で適用できないことになります。これが、一般の人達に「石はよくわからない」と思わせている原因かもしれません。ここに展示した標本は、すべて石英という鉱物の種です。何をもって物を区別をするのかという分類学の問題を考えるよい材料だと思います。
展示ポスターはこちらから
松原聰(まつばら さとし)

松原 聰(まつばら さとし)

地学研究部

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