珪藻は海や湖沼などに生育する単細胞の藻類です。細胞をおおうガラス質の殻をもっていて、この殻の形にもとづいて分類されてきました。湖に棲む珪藻の場合、この分類が難しく種名をはっきりと決められないものも多くあります。同じ種と思われるものでも、それぞれの湖によって個性的な形を持っているからですA。
この「個性」は、なぜ、どのようにして、できたのでしょう?個性が著しくなることによって、やがて別の種が生まれるのでしょうか?
湖底の地層を掘ってBC、そこに含まれる珪藻の殻(珪藻化石)の形を調べています。湖の珪藻の進化に関わる問題@と珪藻が生きていた時の様子Dを明らかにしたいと思っています。研究はまだはじまったばかりです。
琵琶湖の現生珪藻とその先祖たち@
琵琶湖の湖底を掘削して、全長200mのボーリングコアが得られています。ここに含まれる珪藻化石を調べて、現生種の先祖の姿を24万年前までさかのぼって明らかにしました。この間に2回の急激な殻の形の変化が起こり、その後最大サイズの増大があって、現在に至る進化の道すじが推定されます。
湖ごとに個性的な形A
大きな殻ほど多数の有基突起を持っています。同じ大きさの殻で比較すると、湖ごとに中心域の有基突起の数が異なることが分かります。一ノ目潟の標本に有基突起が多く、逆に、野尻湖のものでは少なくなっています。芦ノ湖の集団では、有基突起がない殻も半数ほど見つかりました。
このような形の違いは、湖ごとにそこに暮らす珪藻の遺伝的な性質が異なること、それに加えて個々の湖の環境が異なるためであると考えられます。
湖底の地層を掘るB
研究対象となる試料は、かつて湖だったところの地層、現在の湖の底にある泥です。自ら小舟に乗ってボーリングを行うこともあります。パイプを湖底に押し込んで、地層を柱状に掘り抜きます。研究というより、土木作業ですが、何が取れたんだろうとワクワクしながらパイプを開けます。
写真は、湖上で作業中の山田和芳さん(国際日本文化研究センター)、上手真基さん(首都大学)、篠塚良継さん(北海道大学)。奥野充さん(福岡大学)撮影。
縞縞の地層を調べるC
湖底の地層に縞もようが見つかることがあります。この縞は、珪藻化石ばかりからなる地層と泥粒を多く含んだ層が規則的に積み重なることによってできています。つまり、毎年繰り返される珪藻の大繁殖のリズムを刻んだ記録です。この縞もようを解読して、珪藻と環境の年々変化を読み解くこともやってみたい研究の一つです。
写真は、一ノ目潟(秋田県)の湖底から採取された縞縞。巻き尺の目盛りはcm。左は鬼界アカホヤ火山灰(約7000年前)、右は姶良丹沢火山灰(約3万年前)をはさんでいます(それぞれ赤矢印のところ)。縞の厚さの変化、色調の変化は何を示しているのでしょうか?縞がない砂泥層は、地震で土砂崩れが起こったためにできたと考えられています。
化石から生きざまを推定するD
たったひとつまみの泥に含まれる珪藻化石を観察すると、珪藻の生きざまが記録されていることが分かります。珪藻は分裂するたびに少しずつ小さな殻を作るので、それにもとづいて珪藻の一生を推定できます(図左)。殻の表面に生えているトゲは、となりの細胞とつながるために使われていたことが分かります(写真右)。