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珪藻化石を採集する

齋藤 めぐみ

 わたしが研究している珪藻化石は、大きさが0.1mmより小さいものがほとんどです。ヒトの髪の毛にのせて走査型電子顕微鏡で観察すると図1 のように見えます。珪藻は、現在の海や湖や川などの水の中で生きている単細胞の生物で、光合成によって増殖します。植物プランクトンとして水柱を浮遊したり、光がとどく浅い水底の石や砂に付着したり、水生植物や藻類に付着しています。なので、珪藻が死ぬと、そのガラス質の殻は海や湖の底にたまって珪藻化石になります。

珪藻化石を採集するためには、海や湖の底にたまった地層を掘ります。残念ながら珪藻化石は野外で肉眼で観察することはできません。指先ほどの大きさのひとかけらの泥岩あるいはシルト岩の中にたくさんの珪藻化石が含まれているに違いないと想像しながら、地層もろとも採集します。

図2 岡山県真庭市珪藻土採掘場における珪藻化石の採集風景(福岡大・石原研究室の皆さんと青いカッパを着ているのがわたし)(撮影:林 辰弥)


図2 は、珪藻化石採集風景です。この珪藻土は、およそ50 万年前にこの場所にあった湖の底にたまったもので、蒜山原層(ひるぜんばらそう)と呼ばれています。泥などの不純物が少なく珪藻化石が高密度で含まれているので、品質の高い珪藻土として大規模に採掘されて出荷されています。

近づいてみると、珪藻土が厚さ数mm の縞模様をなしてたまっていることに気づきます(図3)。縞状葉理(ラミナ)と呼ばれる構造です。これは、珪藻が毎年増殖を繰り返しては死んで湖底にたまっていったためにできた構造です。湖底には酸素が十分にいきとどいておらず、縞構造をかき乱すような動物がいなかったために、縞模様がそのまま保存されました。このような珪藻土から1 年ごとの珪藻の営みを読み取ることができるはずです。これまでの研究で、この縞の枚数が数えられており、約6000 年間をかけて厚さ20mの珪藻土がたまったことが分かっています(石原・宮田、1999 年、地質学雑誌)。
 2008 年〜2010 年にかけて、この珪藻土採掘場において、容量7cm のプラスチックキューブや部屋の内装に使うモールを使って、珪藻土を採集しました(図3)。プラスチックキューブで採集すると、一定の体積で珪藻土を採集できる利点があります。1cm あたりの珪藻土の質量や、そこに何個の珪藻化石が含まれているのか、さらには1 枚の縞にどれだけの珪藻化石が含まれているかなどが計算できます(図4)。

珪藻は1 年間にどれくらいの数に増えたのでしょうか?その量はどのように変化したのでしょうか?この珪藻土には2 種の珪藻が優占しています(図4)。両者は競合関係にあったのでしょうか?地層の上位ほど、優占種の1 種の直径が大きくなるという報告があります(広田、1975 年、地球科学)。どれくらいの年数をかけて、どれくらい直径が大きくなったのでしょうか?それは珪藻の進化と呼べるものなのでしょうか?現在、持ち帰った化石標本(珪藻土そのもの)を研究室内で観察して調べています。


図3 採集作業中の珪藻化石標本 (撮影:林 辰弥)( 左:プラスチックキューブ、右:内装用モール長さ90cm)



図4 珪藻土に含まれる珪藻化石数の変化(左)、珪藻土を光学顕微鏡で見たところ(右)

さてここで問題です。
展示してあるプラスチックキューブの中に、珪藻化石は何個入っているでしょうか?その重さは、どれくらいでしょうか?

答え:(↓テキスト選択すると読めます!)
 200 万〜500 万個、
2.1g(1 円玉約2 個分の重さ)

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齋藤 めぐみ(さいとう めぐみ)

齋藤 めぐみ(さいとう めぐみ)

環境変動史研究グループ
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