海洋循環とプランクトン・プロビンスの分化
谷村 好洋
海洋のプランクトン珪藻は、種によって、北極海や南太平洋、赤道太平洋や北太平洋など、それぞれ異なったプロビンス「地方」にすみ分けて増殖しています。
現在のすみ分けは、およそ3500万年前から300万年前の間におこった海洋循環の変遷によって成立したと考えられています。海洋循環の変化は、プランクトン珪藻の多様性や増殖量、プロビンスの分化に深く関わってきました。珪藻化石によって、その過程を復元しようと思っています。
現在のすみ分けは、およそ3500万年前から300万年前の間におこった海洋循環の変遷によって成立したと考えられています。海洋循環の変化は、プランクトン珪藻の多様性や増殖量、プロビンスの分化に深く関わってきました。珪藻化石によって、その過程を復元しようと思っています。
コスモポリタン珪藻 Thalassionema spp. (学名)
Thalassionema属の珪藻は、古第三紀(2500万年前頃)に出現し、現在も全世界の海洋で増殖するプランクトン珪藻です。この属に含まれる種が、化石珪藻群集の半分以上を占めるほどに多産することがあります。海洋循環と珪藻との関係を調べる材料にこの属を選びました。海洋循環と珪藻の増殖
太平洋の表層循環は、海を一周する4つの大きな海流(北から、亜寒帯循環、亜熱帯循環、周南極海流)から成り立っています。珪藻は、北部北太平洋、東赤道太平洋、南太陽(南極大陸を取り囲む海)や大陸の沿岸で大増殖しています。増殖した珪藻の1パーセントから数パーセントは海底に堆積して化石になります。珪藻の大増殖する海域には、栄養塩を海の表層に供給する海洋循環が発達しています。
Thalassionema spp. のプロビンス
試料採集地点(+)に付けた数字は、全Thalassionema属の中でそれぞれの種や変種が占める割合です。Thalassionemaの後についているnitzschioidesやbacillareなどは、それぞれの種の名前を示しています。また、地図の右側の写真は、その種類の光学顕微鏡写真です。現在の海底に堆積しているThalassionema属の種や変種の分布を調べたところ、それらが海洋循環によって分けられたプロビンス「地方」にすみ分けていることが明らかになりました。例えば日本列島の近海では、黒潮の南と北でThalassionema属の種や変種が異なります(A−D)。また、南大洋にすむ種は、北半球から見つかりません(E、F)。3500万年前、南極大陸を取り囲む海流「周南極海流」が成立しました。EやFの変種は、周南極海流の流れる南大洋のなかで進化してきたと考えられます。
海洋循環の変遷とプランクトン・プロビンス
6000万年前の表層循環(6000万年前以降、地球表面のプレートの運動によって、青色の海路は閉鎖し、桃色の海路は開いた)プランクトン・プロビンス分化のモデル[色をつけた線はプロビンスの境界を表しています]
タスマン海路やドレイク海峡が開いて周南極海流が成立しました。亜熱帯循環の成立には、インドネシア海路の閉鎖が必要であったとする考え方が有力です。パナマ地峡の形成によって、大西洋と太平洋が分離されました。古第三紀から新第三紀におこった海洋循環の変遷によって、プランクトン珪藻の多様化や増殖量の変動、プロビンスの分化がおこったと考えられます。現在、上のモデルを作業仮説にして、プロビンス分化の過程を明らかにしつつあります。