南米パタゴニアに植物化石を求めて-2:ナンキョクブナ林の歴史
植村 和彦
チリ・パタゴニアの植物化石調査については,このコーナーで紹介したことがあります.今回はその続きで,ナンキョクブナ属とナンキョクブナ林の歴史を植物化石群の研究からたどってみます.ナンキョクブナ属は,南半球の雨の多い温帯林を構成する代表的な樹木で,北半球温帯のブナ属やブナ林の発達史と共通する点が多くみられます
ナンキョクブナ属の現生種は36種が知られています.多くは高木で,常緑と落葉の種類がありますが.気温の年較差の小さい南半球では,高緯度の亜寒帯でも常緑の種類が分布します.化石は南極大陸からも産出します
ナンキョクブナ属の最古の化石記録は,オーストラリアの約8000万年前(白亜紀後期)の地層から知られている花粉化石です.また,白亜紀の終わりごろには,南極や南米に分布を広げたことが花粉化石で分かっています.葉や材の化石は花粉化石の記録より遅れ,約4000万年(始新世後期)以降と考えられてきました.葉や材化石の出現は,ナンキョクブナ属が広い地域に繁栄しはじめたことを意味します
- パタゴニアの植物化石の調査で,ナンキョクブナ属の出現や,ナンキョクブナ林の成立の様子が明らかになりました
- 葉の化石は,約5000万年前の始新世の最温暖期に出現します. 植生単位としてのナンキョクブナ林は,南極大陸の誕生と地球規模の寒冷化と関係し,北半球のブナ林の成立と同じ傾向を示します
- 日本の裏側,パタゴニアの木の葉化石の一枚一枚は,植物と地球環境の歴史の一こまでもあります. 美しく,ときに過酷なパタゴニアの調査の醍醐味がそこにあります