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東アジアに生きる針葉樹の歴史を探る
─化石で調べる分布変遷と古生態─

矢部 淳

東アジアの針葉樹の仲間には、地理的に極めて狭い範囲に生えるものや、大陸間で離れて分布するグループが多く知られています。こうした針葉樹の祖先は、何千万年もの前には北半球に多く分布していましたが、その後の環境変動などによって、次第に分布域を縮小したと考えられています。しかし、その過程は植物の種類によって違っていて、変化のタイミングも、どんな環境変化に対応したかも一様ではありません。私は化石を調べることで、針葉樹類の進化と分布変遷の過程を詳しく解明しようと取り組んでいます。ここでは、アジアと北米に隔離分布するトガサワラ属の例を紹介しましょう。

トガサワラ属の分布と化石産地

アジア最古のトガサワラ属  Pseudotsuga tanaii Huzioka

アジアで最も古いトガサワラ属化石は、日本がまだ大陸の縁にくっついていた漸新世後期から中新世前期の地層から見つかっています。右図に示した通り、この化石種には、葉の先端がへこむ(6)という、アジアの現生種と共通する特徴に加え、球果の苞鱗片が反り返らない(2-4)という、北米種と似た特徴をもつことがわかりました。北米で見つかる化石が最も古いことを参考にすると、ドガサワラ属は、漸新世のある時期までに北米からアジアに侵入した、そしてその仲間は現在の北米/アジアグループの特徴を併せ持っていたことがわかりました。

初期のトガサワラはどんな場所に生えていたのだろう?

地層や化石の産出状況は、化石となった植物がどんなところに生えていたかを知る手がかりを与えてくれます。こうした観察にもとづいて、化石トガサワラが当時の湖の縁に広がった湿地近くて優占した可能性がわかってきました。また、共に産出する化石からは、当時の気候が東アジアに現生するトガサワラ族の育成環境によりも明らかに寒く、むしろ寒冷な環境に適応してグループだった可能性がわかってきました。トガサワラ属の化石が各地で見つかり始める漸新期は、恐竜時代から続いた温暖な気候が終わり、地球規模で寒冷化した時期にあたります。つまり、トガサワラはこの寒冷化にともなって、北からやってきた要素と見ることができるのです。

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矢部 淳(やべ あつし)

矢部 淳(やべ あつし)

生物進化史研究グループ
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