私の研究 -国立科学博物館の研究者紹介-

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 都市の身近な動物の生態を追って

久居 宣夫
 私の専門は動物生態学で、自然の中で動物がどのように生活をしているのかということを調べています。自然教育園 は、都心にありながら今なお自然豊かな大型の緑地で、動物も多く生息しています。学生時代は東京近郊の河川で水生 昆虫を調べていましたが、自然教育園に勤め始めてからは、いつでもフィールドに出られる地の利を活かし、研究対象 を園内に生息する動物に変えて研究を続けています。
都市で大発生するチビガの調査
幼虫がスダジイの葉に潜って生活するシイモグリチビガが1970年代始めに園内で大発生しました。この蛾は1化性でスダジイが分布する地域に生息していますが、各地で発生量を調べると自然林では少なく、教育園や小石川後楽園など東京の大型緑地で特異的に大発生しているのがわかりました。そして、20年間個体数の変化を調べた結果、発生量を増減させる大きな要因は幼虫に寄生する小さなハチによるものと推定されました。
シイモグリチビガの成虫

シイモグリチビガの成虫

幼虫の食痕

幼虫の食痕

謎に包まれていたヒキガエルの生態の調査
ヒキガエルの生態は1970年代半ばまでは断片的にしか知られていませんでした。教育園にはヒキガエルが多く生息していたので、1973年から1985年まで研究班を組織して調査しました。カエルは1匹ずつ標識を付け個体識別をして調べました。この調査によって変態後の成長、繁殖活動、日常の行動などヒキガエルの生態がかなり詳しく明らかになりました。
産卵に集まったヒキガエル

産卵に集まったヒキガエル

行動を調べるために発信器をつけたヒキガエル

行動を調べるために発信器をつけたヒキガエル

都市の緑地に生息する蝶類の調査
園内の蝶について総合的な調査はこれまでに1971 年と1998 〜2000年に行い、2006年からも3年計画で行っています。これらの調査の結果と1952年の昆虫目録に記載されている蝶類と比較すると、絶滅した種や一度消滅して後年復活した種、最近侵入した種などがいることがわかりました。特に、近年草原性の蝶類が衰退していることや暖地性種の北上現象が顕著になりつつあることが明らかになりました。さらに1996 〜 2005 年に皇居で、2006年からは新宿御苑でも調査を行い、これらの大型緑地での蝶類相を比較して、都市の緑地に生息する蝶類の特徴を明らかにしたいと思っています。
自然教育園では絶滅したヒメウラナミジャノメ

自然教育園では絶滅したヒメウラナミジャノメ

自然教育園では2003年以後毎年みられるようになったナガサキアゲハ

自然教育園では2003年以後毎年みられるようになった
ナガサキアゲハ

 長期間にわたって園内の動物を調査して感じたことは、この30年間に生息する動物に大きな変化が見られるということです。そのため、20年ほど前から昆虫をはじめ種々の動物についてできるかぎり記録を残すようにしています。そして、都市の中で生息する身近な動物がどのように変化するか見続けていこうと考えています。
展示ポスターはこちらから
久居 宣夫(ひさい のぶお)

久居 宣夫(ひさい のぶお)

都市緑地生態研究チーム

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