東京の大型緑地の蝶類
久居 宣夫
私たちの身近でもっともふつうに見られるのはモンシロチョウやアオスジアゲハ・アゲハチョウ・ヤマトシジミ・イチモンジセセリなどでしょう。これらの蝶はいわゆる好都市種と呼ばれ、市街地の公園や街路などでもよく見られます。また、最近では温暖化の影響で北上していると考えられるツマグロヒョウモンやナガサキアゲハなどの南方系の蝶が見られるようになりました。
緑地の植生によって変わる蝶類群集
ところで、東京の緑地にはどのような蝶が生息しているのでしょうか。最近10年間に大型緑地で記録された種類数を比較すると、自然教育園 (20ha)と皇居(115ha)が共に49種、新宿御苑(58ha)が36種、赤坂御用地(51ha)が34種でした。この4箇所の緑地に共通して出現し た蝶はアオスジアゲハ・モンシロチョウ・ウラギンシジミ・ゴマダラチョウなど30種ですが、教育園と皇居にだけ出現した蝶はテングチョウ・アカ シジミ・ウラナミアカシジミ・ミズイロオナガシジミなどがいます。また、教育園にだけ出現した蝶はオナガアゲハ・コムラサキ・オオミドリシジ ミなど7種、一方、皇居でもミヤマカラスアゲハ・スミナガシ・クロヒカゲなど7種いました。これらの蝶は丘陵地や山地に多く生息する種で、かつては都区内にも広く分布していたと考えられています。しかし、その後都市化が進むにつれ て次々と周辺地域から消えていきましたが、東京の中心部にオアシス的に残された教育園や皇居で遺存的に生息しているのが分かりました。これ は、これらの緑地はあまり人手が加えられない広い樹林地や草地などがモザイク的に残されているのに対して、新宿御苑や赤坂御用地では中央部に 広い芝地や庭園などがあり、絶えず草刈りなどが行われているため、蝶類の生息や発生に大きな影響を及ぼしているからだと考えられます。そし て、多種の蝶類が生息するためには緑地の広さだけではなく、さまざまな植生がモザイク状に残されていることが必要なのだということを示してい ます。