石井 格(いしい いたる)
理工学研究部
1988年から地球の気候変動の問題を調べてきた国連の機関であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、2007年に第4次報告書を出しました。 そこでは、私たち人類が地球上で活動していることから生じる二酸化炭素(炭酸ガス)が地球温暖化を引き起こしていることが指摘されています。 左下の図は過去10000年間の大気中の二酸化炭素濃度の変化を示していますが、長いあいだ比較的安定していた二酸化炭素濃度が、この200年ほどの間に 急激に上昇していることがわかります。この上昇の原因が、産業革命以降、人類が石炭や石油という化石燃料を大量消費して大気中に放出した二酸化炭素なのです。 右下の図は過去1000年間の地球の平均気温の変化です。この図に見られるように、この100年くらいに地球の温度が急に上がりだしています。 このように二酸化炭素が地球の気候を温暖化させ、海面の上昇などのいろいろな環境変化や気候災害を引き起こすことから、人類の活動から出る二酸化炭素の量をできる限り減らすことが求められています。 わが国は、2020年までに二酸化炭素排出量を25%減らすことを目標にしようとしています。
下の図は、世界各国の二酸化炭素排出量を示しています。 日本では世界で4番目の排出量です。この排出量を人口当たりで考えると、アメリカは1人当たり20トン、日本やヨーロッパ諸国が10トン、 中国が4トン、アフリカ諸国は1トンと、アメリカや日本などの先進工業国が削減に大きな負担を担わなくてはいけないことがわかります。 日本の二酸化炭素排出量を部門別にみると、右の図のようになっています。産業部門が一番大きい割合を占めていますが、日本の産業部門はすでに 世界の中でも最もエネルギー効率が高くなっています。それに比較すると、民生部門や運輸部門はまだ効率を良くして二酸化炭素排出量を減らす余地が 大きいと考えられます。
日本の一世帯当たりの二酸化炭素排出量を示したものが、左の図です。 1年間の排出量5.5トンのうち、自動車が約30%と大きな部分を占めていて、自動車からの排出量を減らすことが重要であることがわかります。 これを別にすると、暖房と給湯が大きな割合となっています。最近作られる家は高断熱の家が増えてはきたとはいうものの、もともと日本の家は 断熱の良くない家が多いこと、また日本人はお風呂好きなこともあります。 その他電力のうちで電力消費量が大きいもの、すなわち二酸化炭素排出量が多いものは、冷蔵庫とテレビと照明です。これらを高効率化することが、 二酸化炭素排出量を減らすことにつながります。
冷蔵庫を例にとって見てみると、現在の最新型の冷蔵庫は10年以上昔に作られた冷蔵庫に比べて年間の消費電力は約半分になっています。 冷蔵庫が使う電力による二酸化炭素の排出量は家庭の排出量の8%くらいを占めているので、古い冷蔵庫を新しいものに買い替えると、家庭からの 二酸化炭素排出量を4%くらい減らすことができることになります。 けれども、新しい冷蔵庫を製造する時には、そのために二酸化炭素が出ることになります。これはどうなるでしょうか。 原材料の製造から製品の廃棄までの全体を調べるLCAという手法で調べてみると、冷蔵庫を製造するために排出された二酸化炭素は、冷蔵庫使用時の効率向上によりだいたい2年以内で回収できることがわかりました。 エアコンでも同じような機器の効率向上が実現されているのですが、もし年間使用時間が少ないエアコンだとすると、使用時の効率向上による効果が それだけ小さくなるので、製造時の二酸化炭素排出を回収するのに長い時間がかかってしまうことになります。使い方に応じて考えることが必要です。
理工学研究部