地球物理学の研究と資料の調査
大迫 正弘
地球の深部をつくる物質の高圧下の性質についての研究(つづき)
地球の深いところではたいへん高い圧力と高い温度になっています。そのような状態では物質のいろいろな性質が地上での常温常圧という条件のもとにあるときとはちがってきます。そこで、実験室の中で地球の深いところと同じ高い圧力をつくりだして物質の性質を調べる研究が行われています。左のグラフは蛇紋(ジャモン)石の熱伝導度を圧力をかけてはかった結果をカンラン石とくらべて示したものです。蛇紋石の熱伝導の低いことはわかっていましたが、圧力をかけてもほとんど変わりませんでした。ふつう、鉱物の熱伝導度は圧力とともに大きくなるものです。蛇紋石はプレートの沈みこむところで重要な鉱物と考えられています。蛇紋石がそのまわりにたくさんあるカンラン石に比べて熱を伝えにくいということは、プレートの動きにたいして何らかの影響を及ぼしていると考えられます。 いま行っている実験では熱伝導率と熱拡散率を同時にはかるので、高圧での比熱が出せます。比熱は地球内部の温度と圧力と物質(の種類)とを結びつける状態方程式というものの中に入ってくる重要な物理量です。そこで、カンラン石の比熱を求めてみたところ、もっともらしい値が得られました(上のグラフ)。ただ、まだ誤差が大きくて地球内部の状態方程式を吟味できるようなきちんとした比熱の値を出すまでにはなっていません。この研究は、鉱物の比熱を高い圧力のもとで実測するという、だれも行っていない挑戦的なものです。
地球物理学に関する歴史的資料の収集と調査
理工学研究部では地震や測地など地球物理学に関する資料を数多く収蔵しています。筆者が科博に来る前からあるものが多いですが、それ以降に集めたものもあります。このような資料を整理していくなかで、いくつかの貴重な写真や文献、また、珍しい観測器械が眠っていたことがあらためてわかりました。これは地震資料の中にある1880年代の地震観測に関するノートです。はじめて実用となる地震計を発明したユーイングがその弟子の関谷清景とともに観測を繰り返しながら地震計を改良していった様子が書きとめられています。ユーイングの発明した地震計はガラスの円盤に記録をとるものでした。このページにはある時点で試した円盤式地震計のスケッチが描かれています。ユーイングらの地震計の復元模型は日本館1階に展示しています。
日本全国を計測するために、明治の初めにイギリス・フランス・ドイツなどから近代的精密測量器械が輸入されました。やがて、わが国の基本測量はドイツの器械を用いる方式に一本化されることになり、その他の国から入れた器械は測量の第一線から退き、学校の予習で使われるかお蔵入りになりました。科博の測量器械のコレクションの中には、そのことを物語る実物が保存されています。この左の写真と右上の写真の器械はフランス製の経緯儀と水準儀で、1870年代の終わり頃に輸入されたものと思われます。それより前に輸入されたイギリス製の測量器械の所在がわからないので、この2つはわが国に残る精密測量器械のもっとも古いものかもしれません。
右下の写真の器械はツァイス製の精密水準儀です。わが国の三角測量と水準測量の器械はカール=バンベルク製からカール=ツァイス、ウィルドへと世代交代していきました。初代にあたるバンベルク製は前から所蔵していたのですが、あとの代のものがありませんでした。後に科博のコレクションに加わったこのツァイス製の水準儀は、おそらく第二世代の1924年から使われた一等水準測量の器械であると思われます。