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熱かった太陽系初期 〜隕石に残る証拠〜

米田 成一

球粒 -宇宙を漂う液滴

左:アエンデ隕石スライス断面、右:マリランガ隕石の偏光顕微鏡写真

地球や太陽は約46億年前に宇宙を漂う塵やガスから生まれたと考えられています。そのころの太陽系はどんな状態だったのでしょうか。そのヒントは隕石の中に隠されています。隕石は、火星と木星の間にたくさんある小惑星からやって来たと考えられています。地球のような大きな惑星にならなかったために、生まれた当時の状態をよく残しているのです。まさに原始太陽系の化石といえるでしょう。ここでは太陽系がその昔、熱かった証拠を隕石の中に探してみましょう。

上の左側の写真はアエンデ隕石の断面を撮ったものです。直径数mmの丸い粒がたくさんあるのが見えます。これは球粒と呼ばれています。落下した隕石の80%以上がこの球粒を含んでいる球粒隕石です。その右と下の写真はいろいろな球粒を岩石(偏光)顕微鏡で見たものです。すべて直径が1〜2mmのものです。きれいな色は鉱物が光を曲げるために干渉をおこして見えるもので、実際の色ではありません。球粒の中の鉱物の結晶の形は様々ですが、すべてまわりから丸い形にはっきりとわかれて見えます。中には少し欠けたものや2つくっついたものもあります。少し軟らかい炭素質の隕石などでは、たたくと断面からころころと転がり落ちてきます。地球上の岩石にはないたいへんエキゾチックなものですが、何からできているのでしょうか。きっと珍しい元素が入っていると思われるかもしれませんが、実はまわりの部分とほとんど同じ組成でできているのです。つまり地球を作った塵と同じものです。ではどうしてこんな丸い形をしているのでしょうか。実は、宇宙で液体となっていたために雨の粒と同じように表面張力で球形になっていたのです。
短かった加熱時間

いろいろな球粒

球粒のような岩石質のものを融かすためには約1400〜1600℃の温度が必要です。しかし、球粒ができた時、太陽系が全部こんなに高温であったかというとそうではありません。球粒の中の結晶の様子を見ると、ある点から放射状に結晶がのびていたり、針のような結晶ができていたり、あるいは結晶が細かくてよくわからなかったりします。これらはすべて、液体から急速に冷えてできた結晶の特徴です。実験室でこのような結晶を再現してみた結果、1時間に数百〜千℃以上という速度で冷えなければならないことがわかっています。つまり、球粒ができた時、まわりは比較的冷たかったと考えられます。そのような環境で加熱されれば蒸発してなくなってしまいますから、加熱されていた時間も短かったと考えられます。このような加熱の機構としては、空間にたまった電気が放電する雷のようなもの、塵が降り積もってくる時のショック波、太陽が一時的に活発に活動することなどが考えられていますが、まだどれが正しいかはわかっていません。しかし、球粒は普通の球粒隕石の体積の約7割を占めているのですから、原始太陽系空間で非常に効率よく作られたことは間違いないでしょう。
白色包有物 -はじめの5%

左:アエンデ隕石、中:白色包有物、右:白色包有物の偏光顕微鏡写真

球粒のような岩石質のものを融かすためには約1400〜1600℃の温度が必要です。しかし、球粒ができた時、太陽系が全部こんなに高温であったかというとそうではありません。球粒の中の結晶の様子を見ると、ある点から放射状に結晶がのびていたり、針のような結晶ができていたり、あるいは結晶が細かくてよくわからなかったりします。これらはすべて、液体から急速に冷えてできた結晶の特徴です。実験室でこのような結晶を再現してみた結果、1時間に数百〜千℃以上という速度で冷えなければならないことがわかっています。つまり、球粒ができた時、まわりは比較的冷たかったと考えられます。そのような環境で加熱されれば蒸発してなくなってしまいますから、加熱されていた時間も短かったと考えられます。このような加熱の機構としては、空間にたまった電気が放電する雷のようなもの、塵が降り積もってくる時のショック波、太陽が一時的に活発に活動することなどが考えられていますが、まだどれが正しいかはわかっていません。しかし、球粒は普通の球粒隕石の体積の約7割を占めているのですから、原始太陽系空間で非常に効率よく作られたことは間違いないでしょう。


ではどのようにして、球粒やその他の部分の組成と同じ塵の集まりから、宇宙空間で難揮発性の元素を20倍も濃縮したのでしょうか。答えは、塵を高温にして全部蒸発させてから、温度を少し下げて固まってくるものの最初の5%だけを集めるとよいのです。包有物を作るには、球粒を融かした時とは違って、ある程度の大きさの領域が全部高温であったことが必要なのです。その温度は太陽系星雲の水素ガスの濃さによって変わりますが、例えば水素ガスの圧力が千分の一気圧の場合は約1200℃であると平衡凝縮モデルという理論計算で求めることができました。

さらに高温でできた包有物

これらの写真はタイプ2に分類される炭素質隕石から得られた包有物の電子顕微鏡写真です。タイプ3のものとは逆に、非常に小さいものが多く、どれも0.2mm以下しかありません。左は中の鉱物が青いので青玉型、中央はその形からたこ型と呼んでいるタイプの包有物です。右も私たちが発見した青玉型の包有物ですが、パイ型に一部を切り取った写真です。これらの包有物は岩石の主成分であるケイ素をほとんど含んでいませんので、タイプ3のものよりもさらにアルミニウムに富んでいます。融ける温度も高く、右の包有物はこれまでで一番高い約2100℃で融けたと考えられています。中には難揮発性微量元素を100〜10000倍濃縮した包有物も見つかっています。これなどは最初のたったの0.01〜1%を集めたものということになります。
太陽系が昔、熱かったことを納得していただけましたでしょうか。隕石の中の数mmにも満たない粒から、温度だけではなく、原始太陽系の様々な状態が推定されています。また最近、太陽系を作った塵の生き残り(太陽系より古いものです)が発見され、それらがどんな星からやって来たかが研究されています。

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米田 成一(よねだ しげかず)

米田 成一(よねだ しげかず)

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