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カセミミズの分類

齋藤 寛

カセミミズとは? : 貝のなかまです!
カセミミズのなかまは海にすむ細長い動物です。ミミズという名前がついていますが、陸上にすむミミズのなかまではなく、貝類や、イカ・タコと同じなかま(軟体動物)です。海にだけすみ、サンゴやイソギンチャクのなかまを食べています。

カセミミズのなかま3種。未同定。大きさは1- 3 cm。

カセミミズのなかまは世界から約250種が知られていますが、日本からは10種が知られているだけです。しかし、標本を集めてみると、日本にはもっと多くの種がいることが分かりました。私は日本にどんな種類がすんでいるのかを調べています。ここではその研究方法を紹介します。
標本を集める
カセミミズのなかまは深い海にすむものが多いので、標本の採集は主に調査船を利用し、ドレッジと呼ばれるカゴのような器具にワイヤーを結び、海底をひきずって採集します。浅い海にすむものはダイビングで採集します。
標本を調べる
このなかまは体の外側の特徴だけでは分類できません。そればかりか、解剖しても分類が難しい種がほとんどです。このため、標本を端から順番にごく薄く輪切りにして切片をつくり、顕微鏡で順番に観察します。
ガラスのナイフを作る
大きな種類はパラフィンに埋めて、厚さ10μm(1mmの1/100)に切り、小さな種類は樹脂に埋めて2μmの厚さに切ります。
2μmの切片を作るためにはガラスでできた鋭く硬いナイフが必要で、これは自分で作ります(下左)。ガラスの棒を専用の道具で折って作りますが、良く切れるナイフはなかなかできません。何度もガラスを折って、切れそうなものを選びます。できたナイフが良く切れるかどうかの見きわめもなかなか難しいところです。

切片をつくる様子。標本が上下に動き、ナイフに当たって切れます。切片がつながったリボンが「ボート」に張った水に浮いています。
標本を薄く切る
切断にはミクロトームと呼ばれる装置(左図)を用います。この装置を使うことで標本を同じ厚みで連続的に切ることができます。
ガラスナイフには「ボート」と呼ばれる小さな水槽を取り付けて水を張り、切片が浮くようにしてあります(左下図)。また樹脂の一面には接着剤を塗り、切片がリボン状につながるようにしてあります。
標本の端から順番に切っていきますが、切片は1枚たりとも失えません。切った切片全部を使って体の構造を復元するからです。できたリボンはガラス板の上にすくいあげ、伸展、乾燥、染色、封入といった作業を行い、観察できるようにします。


長さ7.6cm、幅2.6cmのガラス板の上に並んだ50枚の切片(点の列)と、その1つを拡大したもの(右:脳神経節のある部分の切片)。
切片から体の構造を復元する
こうしてできた切片は端から順番に観察して、神経や内臓などさまざまな器官の形や位置を調べていきます。
それぞれの切片上の器官の位置を測り、グラフ用紙に記入していき、横からみたように復元したものが下の図です。最初に切片を観察するときはとても楽しいのですが、グラフ用紙に点を打っていく作業はちょっと忍耐が必要です。最後に各点を結ぶと、内部の器官の形が復元できます。
このような観察結果と、これまでに知られている種の特徴を較べることで、所属するグループや種名がわかります。

カセミミズ類の1種の前端の内部構造。
切片を観察し、各器官等の位置をグラフ用紙に記入したもの。 / 左の図を見やすくしたもの。
パソコンを使って復元する
顕微鏡にデジタルカメラをつけて、やはり端から順番に切片の画像を撮影し、それをパソコンに取り込んで3D(三次元)画像をつくる方法もあります。コンピューターを使うといっても、切片を1枚1枚撮影し、神経や内臓を色分けしてコンピューターに認識させなければなりません。しかし、一度作業をしてしまえば、体の様子をいろいろな角度から立体的にみることができます。技術が進めば、将来はもっと手軽にできるようになるかもしれません。


上の図と同じ部分を3D(三次元)画像で表したもの。

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齋藤 寛(さいとう ひろし)

齋藤 寛(さいとう ひろし)

海生無脊椎動物研究グループ
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