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 幼虫が葉を食べる古代のハチ ハバチ類の研究

篠原 明彦
 私は、幼虫が植物の葉を食べる原始的なハチの仲間であるハバチ・キバチ類を研究しています。この仲間は日本から約800種が知られていますが、まだまだ新しいものが見つかるので、実際には少なくとも1000種はいると考えられています。ハバチ・キバチ類の14の科のうち、とくにヒラタハバチ科とミフシハバチ科の系統分類に力を入れています。
生まれて初めて採集したヒラタハバチの新種 タカネアトグロヒラタハバチAcantholyda alpina Shinohara(ホロタイプ)

中学2年の夏(1966年)に、生まれて初めて採集したヒラタハバチの思い出深い標本。34年後の2000年に新種として記載・命名したタカネアトグロヒラタハバチAcantholyda alpina Shinoharaのホロタイプ(新種命名の基準となる標本)に指定した。

長い竿に付けた捕虫網でハチを捕る
長い竿に付けた捕虫網でハチを捕る。
ヒラタハバチ科の系統分類
A-D: Onycholyda sertata (Konow, 1903); D-J: Pamphiliusleleji Shinohara & Taeger, 2007. ロシア極東産ヒラタハバチに関する論文(Shinohara & Taeger, 2007)より
 ヒラタハバチ科は世界で300種近く、日本からは80種近くが知られています。私がハバチの標本を集め始めた1970年頃には日本からは30種あまりが記録されていただけでした。今では、日本にどのような種がいるかはかなり分かってきていますが、それぞれの種の生態や分布についてはまだまだ未知の点が多く残されています。また日本のヒラタハバチ類がどのように大陸から分布を広げ進化してきたかを知るために不可欠なアジア大陸東部のヒラタハバチ類の研究はまだ断片的にしか行なわれていません。今後はとくに東アジア各地のヒラタハバチ相の解明に力を注ぎたいと思います。
カエデヒラタハバチ種群3種の♀頭部,A: P. politiceps Shinohara & Yuan, 2004 (中国産); B, P.uniformis; C-E: P. takeuchii Benes, 1972(日本産); F: P. croceus Shinohara, 1986(ロシア産).  世界のカエデヒラタハバチ種群に関する論文(Shinohara & Zhou, 2006)より カエデヒラタハバチ種群7種の系統関係
Pamphilius uniformis  Shinohara & Zhou, 2006(中国産)の♂交尾器(走査電顕画像)
チュウレンジハバチ類(ミフシハバチ科)の分類と生態
数年前から共同研究者とともにチュウレンジハバチ類の幼虫の研究を進めています。チュウレンジハバチ類と言えばバラやツツジの害虫として知られています。成虫はよく似たものが多いのですが、幼虫は種によって形態や食べる植物に大きな違いがあり、これまで困難だった種の分類に大変役立つことが分かってきました。この研究によってこれまで20種あまりとされていた日本産のチュウレンジハバチ類が実は40種近くいることが明らかになりつつあります。
さまざまなチュウレンジハバチ類の幼虫 さまざまなチュウレンジハバチ類の幼虫.種によって食べる植物も異なる.ここに示した17種のうちこの研究以前に幼虫が知られていたのは5種のみ(うち1種はヨーロッパの記録で日本では未発見,別の1種は過去100年 近く幼虫の記録なし).
A:交尾する成虫;B-C:産卵する成虫;D:葉の縁に産み込まれた卵;E-I:幼虫;J:繭
展示ポスターはこちらから
篠原 明彦(しのはら あきひこ)

篠原 明彦(しのはら あきひこ)

(退官)