山田 格(やまだ ただす)
(退官)
もともと海の中にいるものが海岸に打ち上げられたり、流れ着いたりすることをストランディングといいます。我々はイルカやクジラのストランディング個体を研究することで、かれらの謎に迫ろうとしています。病理学的解剖で死因を探り、胃に残されている食べ物から食性を調べ、卵巣や精巣などから繁殖のサイクルを知り、人間がたれ流している環境汚染物質の影響を調べ、進化のあとをたどって体の構造を研究したりしています。国立科学博物館では全国のストランディング調査を継続的に行っていますが、その中からいくつか目立った話題を紹介します。
1998年に山口県の角島で発見されたヒゲクジラを新種ツノシマクジラ(Balaenoptera omurai)として記載しました。それにともない分類学的な理解が不十分であったいわゆるニタリクジラについて東南アジア諸国や南アフリカなどでも調査を進め、本態を解明しようとしています。
(写真:ツノシマクジラの頭骨(タイプ標本))
オーストラリアの博物館の収蔵庫に眠っていた不明の頭骨が、それまで知られていなかった新種であることが記載されたのは1926年のことでした。それ以降もなかなかどのような外部形態の種なのかわからなかったのですが2002年7月鹿児島県でうちあがった6.5mのクジラがこのタイヘイヨウアカボウモドキ(Indopacetus pacificus)であることを確認しました。その後、フィリピンや台湾などでも発見が続いていますが、2010年9月函館市で我が国2例目の個体がストランディングしました。現在この個体についても調査を進めています。
(写真:2002年薩摩川内市
いおワールドかごしま撮影)
よくメディアに取り上げられる事件として多数のイルカたちが海岸に座礁することがあります。我が国では茨城県、千葉県、宮崎県、鹿児島県などで、特にカズハゴンドウという種のイルカが時に100頭以上も打ちあがったことがあります。この原因はまだ明らかになっていませんが、なぜかれらが自分たちで陸に上がってしまうのか、これからも継続的に調べていかなければなりません。
(写真:2011年鹿嶋市)
かつて日本近海ではシャチの捕獲が行われていましたがかれの生物学的な詳細は謎に包まれたままです。2005年にに羅臼で9頭ののシャチが流氷に閉じ込められて死んでしまった事件がありました。このシャチを調査した結果、イカとアザラシを種として食べていたことが確認されましたが、これは世界的にもあまり知られていない組み合わせで、もしかすると西部北太平洋のシャチは独特のグループかもしれないことが示唆されます。2010年には同じ食性のシャチ2頭がが羅臼と稚内でストランディングしました。これについてはさらに解析を進めていかなければなりません。
(写真:2005年羅臼 宇仁義和撮影)
このような調査結果は、全国の大学、研究所、水族館をはじめ多くの方々の協力があって初めて実現するものです。この場を借りてこれまで様々なお力添えを頂いた皆さんに感謝の意を表したいと思います。
(退官)