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クジラ・イルカの謎をときほぐす

日本をとりまく海からは40種ほどのイルカやクジラが報告されています。そのほとんどが体の構造や生態など謎に包まれている ものばかりです。私は、かれらの体の構造を知りたくてイルカやクジラの研究を始めました。クジラやイルカはヒトと同じく哺乳類です。哺乳類を含む脊椎動物は今から5億年以上前に海で誕生しました。4億年ほど前になると、陸に上がって生活するものも現れ、ついには哺乳類が生まれます。哺乳類は陸上でよりよく生活できるように進化したのです。それなのに、海に戻っていったヘソまがりがいます。クジラやイルカのなかま(クジラ目)、ジュゴンやマナティ(カイギュウ目)です。アザラシやオットセイも海に戻ろうとしているのでしょうか。

ストランディング調査

もともと海の中にいるものが海岸に打ち上げられたり、流れ着いたりすることをストランディングといいます。我々はイルカやクジラのストランディング個体を研究することで、かれらの謎に迫ろうとしています。病理学的解剖で死因を探り、胃に残されている食べ物から食性を調べ、卵巣や精巣などから繁殖のサイクルを知り、人間がたれ流している環境汚染物質の影響を調べ、進化のあとをたどって体の構造を研究したりしています。国立科学博物館では全国のストランディング調査を継続的に行っていますが、その中からいくつか目立った話題を紹介します。

新種の発見

ツノシマクジラの頭骨(タイプ標本)

1998年に山口県の角島で発見されたヒゲクジラを新種ツノシマクジラ(Balaenoptera omurai)として記載しました。それにともない分類学的な理解が不十分であったいわゆるニタリクジラについて東南アジア諸国や南アフリカなどでも調査を進め、本態を解明しようとしています。
(写真:ツノシマクジラの頭骨(タイプ標本))

タイヘイヨウアカボウモドキ

タイヘイヨウアカボウモドキ

オーストラリアの博物館の収蔵庫に眠っていた不明の頭骨が、それまで知られていなかった新種であることが記載されたのは1926年のことでした。それ以降もなかなかどのような外部形態の種なのかわからなかったのですが2002年7月鹿児島県でうちあがった6.5mのクジラがこのタイヘイヨウアカボウモドキ(Indopacetus pacificus)であることを確認しました。その後、フィリピンや台湾などでも発見が続いていますが、2010年9月函館市で我が国2例目の個体がストランディングしました。現在この個体についても調査を進めています。
(写真:2002年薩摩川内市 いおワールドかごしま撮影)

マスストランディング

2011年鹿嶋市

よくメディアに取り上げられる事件として多数のイルカたちが海岸に座礁することがあります。我が国では茨城県、千葉県、宮崎県、鹿児島県などで、特にカズハゴンドウという種のイルカが時に100頭以上も打ちあがったことがあります。この原因はまだ明らかになっていませんが、なぜかれらが自分たちで陸に上がってしまうのか、これからも継続的に調べていかなければなりません。
(写真:2011年鹿嶋市)

日本近海のシャチ

2005年羅臼 宇仁義和撮影

かつて日本近海ではシャチの捕獲が行われていましたがかれの生物学的な詳細は謎に包まれたままです。2005年にに羅臼で9頭ののシャチが流氷に閉じ込められて死んでしまった事件がありました。このシャチを調査した結果、イカとアザラシを種として食べていたことが確認されましたが、これは世界的にもあまり知られていない組み合わせで、もしかすると西部北太平洋のシャチは独特のグループかもしれないことが示唆されます。2010年には同じ食性のシャチ2頭がが羅臼と稚内でストランディングしました。これについてはさらに解析を進めていかなければなりません。
(写真:2005年羅臼 宇仁義和撮影)

このような調査結果は、全国の大学、研究所、水族館をはじめ多くの方々の協力があって初めて実現するものです。この場を借りてこれまで様々なお力添えを頂いた皆さんに感謝の意を表したいと思います。

展示ポスターはこちらから
山田 格(やまだ ただす)

山田 格(やまだ ただす)

(退官)