琉球列島

日本列島の南西、約1000kmにわたって連なる多数の島は、一般に琉球列島と呼ばれている。奄美諸島、沖縄諸島などからなるこれらの島々は、気候、風土ばかりではなく、本土とは全く違った亜熱帯性の植生と動物相を育んでいる。この琉球列島に産する天然記念物の動物とそれを取り巻く豊かな自然環境を、奄美諸島沖縄諸島と大東諸島、および八重山諸島(宮古諸島を含む)の3つのブロックに分けてとりあげる。


ハブのいる島いない島 ―琉球列島の生い立ち−

琉球列島では大陸との地史的な関係を示す貴重な動植物も数多く見出されている。その代表的な生物が猛毒を持つヘビとして有名なハブの仲間である。なお、これらのヘビは天然記念物ではない。ハブ類は中国南西部から台湾、琉球列島、北はトカラ列島南部(宝島、小宝島)まで分布する。しかし、ハブ類がいるのは、奄美大島、徳之島、沖縄島、石垣島、西表島などいくつかの島に限られており、同じ地域に属する沖永良部島、与論島、宮古島、与那国島などには産しない。昔、琉球列島と大陸が陸続きであった頃、この地域にハブ類の祖先が侵入し、その後の気候の温暖化や地殻変動によって琉球列島の大部分が海面下に没した際に、標高が高く海面上に残った島にだけ生き延びることができたためだと考えられている。また、大東諸島のような沖縄から遠く離れた隆起珊瑚礁の島にはハブ類は最初から侵入することができなかった。ハブ類と同じようにいくつかの島にだけ見出される大陸系の動物も少なくない。

 

生物分布境界線 −奄美諸島−

世界の動物相をその共通性からいくつかのブロックに分けて考える区系生物地理学の考え方では、日本本土は旧北区、琉球列島の大部分は東洋区という大きなブロックに分類されている。この2つの大きなブロックの境目、つまり動物相がその両側で非常に異なっている生物分布境界線がどこにあるかが、古くかおおいに議論されてきた。動物学者の渡瀬庄三郎による哺乳類の研究などに基づいて提唱された「渡瀬線」は、トカラ列島の悪石島と宝島の間にひかれており、ハブの分布境界線もこれに一致している。この線のすぐ南側にある奄美諸島ではアマミノクロウサギ、ルリカケスなどの固有種が知られ、それ以北の動物相とは非常に異なる。

 

動物たちの分布の十字路 −沖縄諸島、大東諸島−

先に、動物相の大きな境目が本土と琉球列島の間にあるということを述べたが、すべての動物がこれを境に南北にすみ分けているわけではない。本土から屋久島、奄美大島まで分布する種もあれば、沖縄島まで分布するものもある。これら北寄りに分布するものは、氷河期のような気候の寒冷な時期に南下してきたものが、以後の温暖化によって一部に取り残されたのであろうと考えられている。また、台湾を経て琉球列島の南寄りに分布する種は温暖化によって北へ分布を拡大した、あるいは今でも拡大しつつある亜熱帯性の種であろうと考えられる。沖縄島を中心とする沖縄諸島にはヤンバルテナガコガネやノグチゲラなどの固有種が知られているが、その侵入経路は多様で、この地域はまさに、北方系の動物と南方系の動物が交わる、分布の十字路であるといえよう。

 

亜熱帯の島に生きる−八重山諸島−

八重山諸島は日本の南端にある島々である。青い珊瑚礁の海と砂浜、熱帯のジャングルを思わせるうっそうとした亜熱帯林は、本土とはかけ離れた自然の景観を作り出している。天然記念物に指定されたイリオモテヤマネコの生息する西表島は深い密林におおわれ、河口にはマングローブの森が拡がっている。この地域は台湾と共通の種や、台湾に近縁の種を持つ生物が多く見られるのが特徴である。日本の最西端にあたる与那国島には世界最大の蛾といわれるヨナグニサンが生息し、その発生地とともに沖縄県の天然記念物に指定されている。

  

 

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