取り残された北極圏
北海道の中央にそびえる大雪山には、氷河時代の生き残りともいえる北極圏やその周囲に生息する動植物が多数分布している。この山塊は天然保護区域として天然記念物の指定を昭和46年に受け、さらに昭和52年には特別天然記念物に指定変更され、厳重に保護されている。
天然記念物のチョウたち
この地域には、種として天然記念物の指定を受けているウスバキチョウ、ダイセツタカネヒカゲ、アサヒヒョウモン、カラフトルリシジミの4種のチョウが生息している。成虫はコケモモ、イワウメ、ミネズオウ、エゾノツガザクラ、チシマツガザクラなどの花で吸蜜するが、暗褐色のダイセツタカネヒカゲはあまり花を訪れずに岩の上に翅を閉じて静止することが多く、横倒しになる性質があり、岩に背景に溶け込んで発見が難しくなる。また、これら4種のチョウの幼虫もコマクサ、ダイセツイワスゲ、キバナシャクナゲ、コケモモ、クロマメノキ、ガンコウランなどの高山植物を食べているが、多くの人々によって守られている豊かな高山植生に育まれ、個体数は増加の傾向にあるという。生息環境を含めた保護活動がいかに大切かを示す好例である。大雪山の夏は多くの登山者でにぎわっているが、登山道の整備や、レンジャーと地元のボランティアたちによる熱心な教育、監視活動の努力が実を結んだといえよう。
昼飛性の高山ガ
この大雪山の高山帯には、天然記念物に指定されたチョウ類に優るとも劣らない、貴重な昼飛性のガ類がいる。ヤガ科のダイセツキシタヨトウ、コイズミヨトウ、クロダケタカネヨトウ、ヒトリガ科のダイセツヒトリ、ドクガ科のダイセツドクガ、シャクガ科のダイセツタカネエダシャクの6種である。昼間飛ぶだけあって、ダイセツヒトリやダイセツキシタヨトウのように美しい斑紋をもつものが多いが、花や岩に静止すると、発見が困難になる。すべてが、天然記念物に指定されているチョウ類と同様に北極圏を取り巻く極地や、高山帯に分布するもので、日本では大雪山の特産である。幼虫も、知られているものすべてが高山植物に依存している。なお、本州中部の高山帯に生息する昼飛性の高山ガには、ヤガ科のタカネヨトウ1種のみが知られている。この種はクロダケタカネヨトウに近縁であるが、北海道には生息しない。本州の高山帯にくらべ、いかに大雪山に周極地性の種が多く生息しているかが理解されよう。
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