「小型女性人物像」 16世紀初頭 ペルー文化省・トゥクメ遺跡博物館 撮影:義井 豊 |
考古学
インカ帝国の本格的な考古学調査が始まってから、すでに100年以上がたちます。過去数十年間にインカ考古学は注目に値する変貌を遂げました。展示物には、解明半ばの不思議な紐の記号「キープ」や、聖なる山の生贄に供えられた小さな人形、それにアクリャ(太陽神と王のために選ばれた処女)が織ったと思われる美しい織物など、王や犠牲者にかかわりのある品から食器や農具などの日常品、石造建築や金属加工に使われた道具類など、インカの人びとの生活を伝えるものまで、よりすぐりのものを選びました。これらの遺物は、考古学が得た新しいアイデアをみなさんに伝えるとともに、奥深いインカの秘密を打ち明けてくれることになるでしょう。
「ミイラ包み」15〜16世紀 レイメバンバ博物館 撮影:義井 豊 |
人類学
今から600年ほど前、南米アンデスで急速に勢力を拡大し、一大帝国を築いたインカ族。実は彼らがどこに起源し、どのような生活を営んだ人だったのか、その実体は依然として謎に包まれています。この展覧会に合わせて、インカの人骨やミイラの調査を行い、その実像を明らかにする研究をスタートしました。インカに滅ぼされたチャチャポヤ人のミイラや、100年前、マチュピチュを発見したイェール大学の、ハイラム・ビンガムが集めた人骨のDNA分析も行い、インカの統治や生活の実体を明らかにしました。この展覧会では、最新の人類学研究が明らかにしたインカの人々の姿を紹介します。
「ケロ」植民地時代 ペルー国立クスコ大学・インカ博物館 撮影:義井 豊 |
歴史学
これまで一般的に、インカ帝国がスペイン人によって滅ぼされたあと、インカは消滅したと考えられてきました。けれども近年、歴史研究者たちは、征服後も古都クスコに多くのインカ族の末裔が集住し、結束して事に当たっていたことを明らかにするとともに、植民地時代を通じてアンデスのさまざまな領域で、インカがその姿形を変えながらも息づいていたことを示す多くの痕跡を見いだしつつあります。本展覧会では、植民地時代を生きた「インカ」をめぐる絵画などの諸作品を展示し、その歴史的意味について最新の知見にもとづいて紹介することにより、従来とは異なった新しいインカ像を提示したいと思っています。