シンクロノーム電気時計2種(30秒信号型、秒信号型)
シンクロノーム電気時計(30秒信号型)
シンクロノーム電気時計(秒信号型)
30秒信号型シンクロノーム電気時計は、1895(明治28)年にイギリスのF・ホープ-ジョーンズが特許を取得しシンクロノーム社が製造した時計です。時計は、30秒ごとに電気信号を発生する親時計とその信号によって駆動する子時計から構成され、写真はその親時計です。機構は大変単純で動作は次のようなものです。周期2秒で振動する振り子(秒振り子)の竿の送り爪によって歯車(歯数15)が回転します。歯車は振り子15振動すなわち正確に30秒で1回転し、1回転ごとに逆L字型ハンマーのストッパーが外れ、ハンマー先端のローラーが振り子の中程に取り付けられたエッジの斜面をたたいて、振り子を加速します。ここで接点が働いて電磁石でハンマーが元の位置に戻され、同時に電気信号が発生します。この機構は簡潔で無理が無く、安定した計測用の電気信号が得られるので、多く製造され天文台や研究所などで使われました。
秒信号型シンクロノーム電気時計は、1911(明治44)年にW・H・ショートが特許を取得したものです。その駆動部分は時計の下部(重り下付近)にあり、駆動用ハンマーが重りの下に取り付けられた衝撃輪を振り子が真下を通過する毎にたたいて振り子に振動のエネルギーを与え、同時に電気信号を発生するようになっています。振り子は周期2秒で振動するので、電気信号は正確に1秒ごとに発生します。
秒信号型シンクロノーム電気時計は、当時急速に発展してきた物理学や天文学において要求されていた計測用の正確な秒信号のために開発されましたが、実際には構造に致命的な欠陥があって12台しか製造されませんでした。その後1921(大正10)年に、ショートは衝撃輪を用いた駆動機構を発展させ、日差2~3/1000秒という素晴らしい精度の振り子時計、ショート・シンクロノーム天文時計を完成させました。秒信号型シンクロノーム電気時計は、ショートの開発過程を検証する少ない貴重な物証なのです。
これらの2種のシンクロノーム電気時計は、時に強い関心を持っていたことで知られる六代目板東彦三郎(歌舞伎俳優)の所有していたものです。彼は、自宅を根岸信号所と呼び、シンクロノーム電気時計を始めとして精度の高い時計を設置して、常に正しい時刻を知ることができるようにしていました。これらの時計を使ってNHKの時報の狂いを1/100秒単位で測定し、NHKへ通報していたのは有名な話です。
30秒信号型の機構部
秒信号型の機構部