プロジェクトメンバー紹介

海部 陽介

氏名 海部 陽介(かいふ ようすけ)
所属・役職 国立科学博物館 人類研究部人類研究グループ長
その他の
役職
東京大学 大学院理学系研究科生物科学専攻准教授
Springer国際専門書籍シリーズ「Science of Human History in Asia and the Pacific」共同編集長
専門分野 アジアにおける人類の進化と拡散史の研究

自己紹介:プロジェクトでの役割・期待すること

プロジェクトを、発案者・代表者として運営していく立場にあります。

専門の研究分野は、人類化石の形態解析を通じてその進化を探る「形態人類進化学」です。2万年前の沖縄島にいた港川人の化石研究に憧れ、2007年頃から沖縄での調査活動に携わるようになりました。そのうち「なぜここに人が現われたか」を考えるようになって、たどりついたのがこの航海プロジェクトです。

考古学や霊長類学などの知識も積極的に取り入れ、人間のことを総合的に理解したいと考えているため、時に専門を外れて脱線することを厭いません。今回の実験航海プロジェクトは研究人生最大の脱線ですが、こんなアイディアが自然に出てきたのは、知り合いだった後藤明さん(海洋民族学)や内田正洋さん(シーカヤック探検家)とチームを組めばできそうだと直感したからでした。

過小評価も過大評価もしない、本当の祖先の姿を知りたいと考えています。彼らが大きなチャレンジをしたことだけは間違いありません。それがどのようなものだったのか、今回の実験を通して迫っていくのがとても楽しみです。そして多くの方々が、このプロジェクトの行く末を私と同じように楽しみにして下さっていることが、何よりも嬉しいです。

ふだんの研究活動

  1. アジアの原人進化

化石の形態解析と野外調査を通じて、アジアにおける原人の出現・多様化・絶滅について研究しています。ジャワ原人の研究を皮切りに、これまでフローレス島で発見された身長1メートルの小型原人(フローレス原人)や新発見の台湾の原人など、国際的に注目される成果を発表してきました。こうした業績により2012年に栄誉ある日本学術振興会賞を受賞しています。

  1. ホモ・サピエンスの出現と拡散

化石研究に加え、考古学や遺伝学の成果も統合してアジア人の起源を読み解く総合的研究に挑戦しています。主な業績として、2011年に日本旧石器学会と協力して国際シンポジウムを行い、その成果を2015年に600ページの英文論文集として出版しました。こうしたグローバルな視点からの調査が、日本列島への渡来における航海の必要性という認識につながっています。

  1. 日本人の骨格形態変化

「歯並びが乱れ、上下の歯列がうまくかみ合わない不正咬合が現代人で増えたのはなぜか?」というのが学位論文のテーマでした。最近指導した大学院生の面白い研究として、「縄文人は腕や脚が長いかと思っていたら意外に短足だった」というものがありました。

著書

「日本人はどこから来たのか?」文藝春秋 2016年
航海プロジェクトのために書き下ろした1冊で、読んで頂ければその背景がわかります。アフリカ生まれの祖先たちがアジアへ進出し、日本列島へ至る途上にあったはずのドラマについて、現在の研究から言えることをまとめました。新聞・雑誌で多数紹介されています。
「人類がたどってきた道:“文化の多様化”の起源を探る」NHKブックス 2005年
ホモ・サピエンスがアフリカに起源し、そこから世界へ大拡散をとげたという過去の背景にある大きな意味について書き綴った本です。やや専門的ですが、高校・大学の国語科入試問題にも使われました。
Emergence and Diversity of Modern Human Behavior in Paleolithic Asia(共同編集) Texas A&M University Press 2015
インド~ロシア~オーストラリアに至るアジア諸地域で活躍する研究者が集結した国際シンポジウムの成果論文集。アジア研究の面白さが凝縮されています。

関連ウェブサイト

ttp://www.kahaku.go.jp/research/researcher/researcher.php?d=kaifu(科博HP)
http://www.nikkei-science.com/201305_008.html (日経サイエンス誌)
http://nationalgeographic.jp/nng/article/20130529/352348/ (ナショナルジオグラフィック日本版)
http://bluebacks.kodansha.co.jp/serial/1/1/ (川端裕人氏の連載、講談社BOOK倶楽部)

好きなもの・気になるもの

大切にしている時間
すべての時間。寝ないで平気な体になりたい。
気になるニュース アジアの国際関係。あまりにいがみ合いが多すぎるから。
会いたい人 白州次郎さん
人生のターニングポイント 博物館に勤めたこと
行きたい場所 海外出張が多いので日本国内をもっと知りたい
好きな音楽 Perfume

※週刊現代掲載記事「私のいちばん」より抜粋・編集

最後にひと言

思えばもう20年以上、ずっと陸の上で土にまみれて祖先の歴史を探る研究をしてきました。しかしこのプロジェクトが始まって以来、メンバーの内田正洋さんから「お前は“あまべ”なんだから海のことをやるのは当然だ」と言われ、半分(以上)本気になってます。