このプロジェクトで一つの重要な要素になるのが、3万年前に黒潮がどこをどのくらいの速さで流れていたのか?です。
私の専門は古環境の復元で、これまで東シナ海の古環境について研究を進めてきました。東シナ海南部に深く開いている沖縄トラフの海底堆積物コアを使って、その中に含まれる有孔虫化石から過去の黒潮を復元します。化石として残っている有孔虫の殻を化学的に分析することで、当時の水温を復元することができるのです。また、さらに海洋モデルの専門家と組んで、私の地質学的な証拠からの水温の復元結果を海洋モデルの結果と比較し、復元水温を海洋モデルで再現するには黒潮の速さはどのくらいでなければならないのか、というところまで詰めていきたいと考えています。
5万年〜3万年前は、古環境としても大変面白い時代です。グリーンランドの氷床コアからダンスガード・オシュガーサイクルという千年程度の間隔で起こる急激な気候変動が見つかり、さらにアジアでも中国の鍾乳石からグリーンランドに同調した振幅の大きな気候変動が見つかっています。黒潮は低緯度から高緯度側に熱や塩分を運ぶ重要な役割を果たしています。5万年〜3万年前の黒潮の速さや流量まで推定できれば、急激な気候変動を起こしていた時代の気候学的・海洋学的な背景についてもさらに理解が進むだろうと期待しています。 |