数十年前には考えられなかったことですが、現在では顕微鏡を使って珪藻化石をせいぜい数分から十数分間ほど観察するだけで、その試料の地質時代を数十万年単位で簡単に言い当てることができるようになりました。
海底の堆積物や陸上の地層の中には驚くほど大量の珪藻化石が含まれています。堆積物や岩石を水や薬品を使って分解し、薄い泥水(懸濁液)を作ってプレパラートにすると、珪藻化石を顕微鏡で簡単に観察することができます。珪藻化石の中には、出現してから消滅するまでの期間が短く、限られた地質時代からしか見つからない種類があります。そのような化石を示準種(地質時代を指示する種)といいます。ここ数十年の間に珪藻化石の示準種(示準珪藻)がたくさん知られるようになりました。放射性同位体を用いた年代測定値(放射性年代値)や地磁気の極性反転の歴史(古地磁気層序)と、この示準種の出現から消滅までの期間との対応を明らかにする研究が進み、現在では珪藻化石を使って堆積物や地層の形成された地質時代を数値で表せるようになったのです。
地球磁場の方向は、地質時代を通じて何回も反転しました。この極性反転の記録を利用して堆積物や地層の年代を推定することができます。地球磁場が現在と同じ方向を向いている時期を正磁極期(
図1の白黒縞模様の黒い区間)、反対を向いている時期を逆磁極期(白抜きの区間)といいます。地球磁場の極性反転の歴史は、海洋底をつくる岩石に残されています。海洋底の拡大軸を中心にして両側に新しく形成されるプレートは玄武岩類からできています。その玄武岩類が冷えて固まるとき、当時の地球磁場の方向が岩石に記録されます。地磁気異常とよばれるその記録は、正磁極期(黒)と逆磁極期(白)の繰り返しであり、白黒の縞模様として認識できます。この縞模様の白い縞と黒い縞の境界の年代を、海洋底が拡大する速度や放射性同位体による年代測定と組み合わせて正確に推定すると、「地磁気極性年代尺度」を作ることができます(
図1の左下)。
珪藻化石などの微化石が含まれている堆積物や岩石には磁性を持つ微小な鉱物が含まれています。磁性をもつ鉱物は、海底に降り積もるとき、当時の地球磁場の方向に並んで堆積します。磁性鉱物が当時の地球磁場の方向に並んだまま、堆積物はやがて脱水し、固化して堆積岩になります。このようにして、堆積岩にも地磁気の記録は残ります。地磁気の極性反転の歴史を記録した堆積物や堆積岩から微化石をとりだして詳しく調べれば、地磁気極性年代尺度と、微化石の出現から消滅までの期間(生存期間)との関係を直接明らかにすることができます(
図1の右)。
堆積物や地層の年代を推定するとき、示準種の出現年代や消滅年代とともに、示準種の出現や消滅などによって定義される「化石帯」が使われます(
図1の右端、12~6B)。微化石層序(微古生物の出現と消滅の歴史)の研究が進み、化石帯は細分され、高精度になり、コード番号を付けてより使い易いものへと改善されてきました。その間、同時進行で、電子顕微鏡を使って珪藻化石の形態分類が進められました。例えば3つの珪藻属(
Crucidenticula, Denticulopsis, Neodenticula)は、分類学的に細分され、その系統関係が明らかになり(
図2)、示準種として、あるいは化石帯区分の重要な基準として利用されています(
図3の右)。
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