生きのびるための工夫


  扁形動物の単生類は、その多くが魚類の鰓や皮膚に寄生する。同じ扁形動物の吸虫類とちがい、中間宿主にはいることなく成虫になる。トラフグに寄生する単生類、ヘテロボツリウムの幼生は水中を泳ぎまわり、トラフグがやってくるのを待つ。チャンスとばかりに近づいたトラフグに飛びつくのだろう、トラフグの鰓にその把握器と呼ばれる器官で食らいつく。その他の単生類はそこでは成虫になるが、この種類は鰓腔という鰓が収まっている部屋の壁に移り住みそこで成虫になる。この時バラバラに住むのではなく、身を寄せあうようにコロニーを作り、時には成虫の体にほかの成虫がしがみつくといったことも起こる。やがて交尾をして大量の卵を生むが、卵は糸状に連なり、絡まった糸の固まりとなって海中の海藻などにひっかかる。
 さて、寄生生物であるからにはうまく宿主に食らいつき卵を生まないことにはその種は絶えてしまう。せっかく生んだ卵がトラフグがいないどこかの沖に流されてしまっては困る。幼生はトラフグが住む沿岸の海水に合わせて、塩分の薄い海水にも耐えられるようになっている。成虫が寄り添って生きることは交尾をするには都合がよいだろう。ヘテロボツリウムの成体が死ぬまでに産む卵の数はざっと数万個。トラフグにどれくら寄生しているかを調べ、寄生が成功する確率を計算するとわずか5万分の1となる。どんな生物でも様々の生きのびるための工夫がされている。寄生生物というとのんきな居候というイメージが強いが、決してそんなことはなく、結構苦労している。

 
トラフグの鰓葉とヘテロボツリウムの成体(撮影:小川和夫)孵化した幼生は水中を泳ぎまわり、チャンスとばかりに近づいたトラフグに飛びつくのだろう。トラフグの鰓にその把握器と呼ばれる器官で食らいつく。やがて成長すると鰓腔の壁に移り住み成体となる。把握器は単生類の特徴である。


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