標本に関すること


Database for Aquatic-vertebrate Science

標本は分類学研究の命

執筆:松浦啓一


魚類の自然史や多様性を研究する場合には、鳥類や哺乳類のように記載分類学がほぼ完了した動物群とは事情が異なることを理解しておく必要があります。魚類は脊椎動物の中で最も種数が多いため記載分類学的な仕事が重要です。つまり新種の記載やどこにどのような種が分布しているかという研究のことです。もちろん、私も含めて記載分類と同時に魚類の系統関係を研究している者も多いのです。しかし、熱帯のサンゴ礁や淡水域においては、記載分類学の重要性は際立っています。生息環境が急激に破壊されているので、系統関係の研究よりもまず種を記載して、多様性研究のベースとなる目録作成を急がねばなりません。そのときに注意しなければならないのは標本を採集し、適切に保管することです。

記載分類ばかりではなく、DNA解析など遺伝子レベルの研究においても標本の価値に変わりはありません。DNAを取り出した組織片がどの生物のものだったかを保証してくれるのは標本です。今後、自然史博物館の使命として、従来の標本と同時に組織片とそれを取り出した標本、さらにはDNAそのものなどの体系的な保管が重要になってくるでしょう。いずれにしても生物多様性や自然史研究にとって標本はかけがえのない物であり、標本なしに研究が進むことはないのです。



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