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魚類研究室には標本に関するデータをコンピュータに入力した標本データベースがあります。標本や標本データの検索に大いに活用されています。また、文献や魚類の画像や特徴に関するデータベースもあります。
標本データベースは今後どのように発展していくのでしょうか。現在、二つの方向性が考えられています。一つは世界の主な博物館の標本データベースを一括して検索できるようにするシステムの開発です。もう一つは標本情報の様々な利用方法の開発です。現在、検討されているのは分布情報の共同利用です。
標本データベースをインターネット上に公開している博物館が増えています。研究者はインターネットを使って必要とする標本を検索できるようになりました。個々の博物館の標本データベースを調べるよりは、一括して検索できる方が便利です。しかし、それぞれの博物館が使用しているソフトウェアーは異なっていますし、データ入力項目にも多少の違いがあります。また、使用言語は国によって異なります。国立科学博物館の魚類標本データは、英語と日本語の両方で入力されています。フランスではフランス語でデータを入力しています。世界共通でデータを利用するためには英語を使わなければなりません。このような課題はありますが、アメリカ、日本、オーストラリア、イギリス、フランス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、南アフリカなどの博物館が協力して、魚類標本検索システムを開発するプロジェクトが進んでいます。
次に考えられるのは、標本データベースの様々な活用です。120万点という膨大な日本産淡水魚類の標本を検索するために日本産淡水魚類標本データベースが作成されましたが、このデータを加工するとさらに便利なデータベースを作ることができます。このデータベースの中には各種の採集地データが記録されているので、そのデータを用いて日本産淡水魚類の分布図を作成することができます。採集地データを緯度経度の数値データに変更し、それに基づいて採集地を地図上に点で示すと分布図ができます。これが日本産淡水魚分布データベースです。この淡水魚分布データベースに収録された各種の分布図を見ると、いろいろな事がわかります。
たとえば、ブラックバスは、1960年代には神奈川県の2カ所で採集されただけで、他の地域からは採集されていません。その後、ブラックバスは人の手によって日本各地に広がってしまいました。そして、在来の淡水生物の生態系を攪乱しています。特に琵琶湖では日本固有の淡水魚をおそって悪影響を及ぼしている害魚です。
また、琵琶湖や淀川水系にのみ生息していたハスやワタカという淡水魚が、既に1960年代には関東各地で採集されています。琵琶湖のアユの種苗が全国各地に放流されたため、アユと一緒に他の魚も琵琶湖から日本各地に広がったのです。このように日本産淡水魚類データベースは淡水魚の研究にとって重要であるばかりではなく、自然環境保全の基礎データにもなります。
分布データを世界中の博物館から引き出すことができれば、ある生物の分布の拡大を予測することも可能です。大きな問題を引きおこす移入種(本来の分布地域から人為的に他の地域に移された生物のこと)対策に活用することもできます。博物館標本の分布情報とある生物の生息環境(生息可能な気温、湿度などの条件)を重ね合わせることによって、その生物が他の地域に移入された場合、どのような場所に分布を広げるかを予測することができるのです。現在、アメリカのカンザス大学自然史博物館の研究者がこの手法を開発中です。彼はこの方法を「予測生物地理学」と名付けました。実際に、北アメリカに移入した昆虫の分布拡大を予測することに成功しているので、利用できる標本データが増えれば、他の地域にも応用できるようになります。もちろん、このような予測を正確に行うためには、カンザス大学以外の標本データが必要になります。世界の多くの博物館が協力しなければ実現しません。
魚類について「予測生物地理学」は可能でしょうか。淡水魚については、生息環境条件を絞り込むことが比較的やさしいので、近い将来、分布予測ができそうです。では、海水魚についてはどうでしょうか。淡水魚とは異なる利用方法がありそうです。海水魚については、採集地の緯度経度、水深、水温などが記録されていることが多いので、博物館の標本データベースを使って新たな漁業資源を探索することができるかも知れません。
一方、標本データベースの公開方法を検討する必要もあります。前述の海水魚の例では、資源の乱獲の可能性を考慮しなければならないでしょう。淡水魚の場合には、絶滅危惧種のデータを慎重に取り扱う必要があります。もちろん標本データの公開が原則になるでしょうが、データベースの解析によって思わぬ情報が得られることがあるので、公開方法を慎重に検討する必要があります。
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魚類研究室(動物第二研究室)が公開している日本産淡水魚類標本データベースの検索画面
日本産淡水魚類標本データベースから作られた日本産淡水魚分布データベース
日本産淡水魚類標本データベースより抜粋 |