人 食 い ザ メ ?





ホホジロザメ Carcharodon carcharias
写真提供:望月賢二



映画「ジョーズ」のモデルになったと言われるサメです。成長すると5メートル以上になります。日本で採集された最大の個体は全長5.8メートルです。南オーストラリアからは全長約7メートルの個体が採集されたことがあります。この個体は巨大で非常に重かったため全身を船にもち上げることができず、頭部のみが採集されました。残された顎の標本を測定し、計算式によって全長を推定したところ、7.3メートルという値が得られたそうです。体重は恐らく2トン以上あったものと思われます。



全長7mのホホジロザメの顎


ホホジロザメの体は強力な筋肉におおわれ、長距離をゆっくりと泳ぎ続けることができます。また、獲物に襲いかかるときには猛烈なスピードで突進します。顎には強力な筋肉をそなえ、しかも幅広い三角形の鋭い歯がはえているので、オットセイやゾウアザラシなどの肉をたやすく食いちぎることができます。ホホジロザメの体の背面は青みがかった灰色で、腹面は白いため、英語ではホワイトシャーク(白いサメ)とかホワイトデス(白い死)などと呼ばれています。



小さな顎は
全長2mのサメのもの


ホホジロザメは全世界の海に分布していますが、北米や南アフリカ、オーストラリア西部から南部の比較的冷たい海に多く現れます。太平洋の熱帯からは少数の報告があるものの、非常にまれです。日本各地でも捕獲例や観察例があり、本州中部や北海道では5メートルをこえる個体が報告されています。北海道では水温約9度の非常に冷たい時期にホホジロザメが漁獲されています。ホホジロザメは沖合にも生息していますが、沿岸の水深が非常に浅い場所にも現れます。



ホホジロザメの歯


ホホジロザメは卵胎生です。生まれてくる子供の数はサメ類としては少数で、5-10個体くらいです。正確な寿命は調査された標本数が少ないため、よく分かっていません。しかし、恐らく20歳くらいまで生きると思われます。ホホジロザメは群をつくることはありません。多くても2個体、通常は単独で生活しています。
ホホジロザメは「人食いザメ」として恐れられています。確かにホホジロザメに攻撃されて命を失った人はいます。しかし、ホホジロザメが人間を狙って襲ったという証拠はありません。それよりは他の動物、特にアザラシやオットセイなどの海生哺乳類とまちがえて襲ったり、舟やダイバーが使用する器具から発生する磁力を獲物と間違えて襲うことが多いようです。サメ類やエイ類は動物が発する磁力を感知する能力をもっていて、これを利用して獲物をさがしているのです。サメによる人間への被害は熱帯海域に多いのですが、熱帯にはホホジロザメは滅多に現れません。ですからサメによる事故の大半はホホジロザメではなく、他のサメ(たとえばイタチザメとかオオメジロザメ)によるものです。しかし、それらのサメ類による事故を計算に加えても、サメによる被害の確率は落雷に遭う確率やハチに刺されて死ぬ確率よりもはるかに小さいのです。