アマミノクロウサギの祖先とその進化をさぐる(パート2)
冨田 幸光
このポスター展示の前回の展示*(2007年4月〜5月)で、アマミノクロウサギの祖先であるプリオペンタラグスの進化の概略を紹介しました。昨年(2009年)、その公式な論文が出版になったことと、その後新たに出てきた問題などを、パート2として紹介します。
中国・安徽(あんき)省の石灰岩洞穴堆積物から、中新世末期、鮮新世前期、鮮新世後期の3つの異なった時代のプリオペンタラグスの化石が大量に見つかり、それらを詳しく調べた結果、いろいろな特徴がしだいに変化していく様子がよく分かり、それを元に3つの異なる種を区別できました。いちばん古い種はすでに命名されていたので、残りの2種について命名と詳しい記載をしたのがケースの中の論文**です。3つの種は、古いほうから
Pl. huainanensis(ファイナンエンシス)
Pl. dajushanensis(ダジュシャンエンシス)
Pl. anhuiensis(アンフイエンシス)
です(③,④)。
いくつかの特徴は、変化しつつしだいにアマミノクロウサギに近付いていることを示しているのですが、地質年代のいちばん若い種(アンフイエンシス)と現在のアマミノクロウサギとの間にはまだかなり大きなギャップがあり、もう1〜2段階の中間種が存在したことが推定されます④。さらに、特徴の一つの骨口蓋橋(②の白矢印)の長さ/幅の比については、プリオペンタラグスの3種は縮小の傾向を示しているのに、アマミノクロウサギは増大しているので(③の右端)、この点で中国の3種の系統とは異なる別の系統を考える必要がありそうです。
一方、北アメリカへ渡った種には、中国のいちばん古い種がもっていた特徴の一つ(p3のエナメル湖)が変化せず常に残っており(100%)、逆に、ヨーロッパの種にはp3のエナメル湖もp4のAERもないことが明らかになりました。このことは、北アメリカへ渡った種の先祖集団は、p3を常にエナメル湖を発現するような遺伝子を持っていた、そして、ヨーロッパへ移動した種の先祖集団は、p3のエナメル湖とp4のAERを発現するような遺伝子を一切持っていなかったことを示唆している、と考えています。