2008-02-15
鳥たちにも「流行」がある!? つがい相手選びと性選択 (協力:動物研究部 西海功)
インドクジャクの配偶者選択と外見的特徴の極端な発達
進化論の提唱者として名高いチャールズ・ダーウィンは,クジャクの尾羽(上尾筒)のあまりの長さ,目玉模様の派手さを前に悩んでいました。その時彼の考えの基本となっていたのは「自然選択」,つまり,より生存に適した外見を持つ個体や行動を取れる個体が生き残り,子孫を残すことができるという適者生存の考え方でした。
クジャクの尾羽は長過ぎて,餌を探したり天敵から逃れたりする為に動き回るにはあまり有利とは言えません。目立ちすぎて天敵に捕食されてしまうこともあります。
オスの尾羽だけが長く派手で,メスは短く地味である理由も自然選択だけからでは説明できませんでした。
自然選択を説いた『種の起源』出版から12年後の1871年,ダーウィンは新たな著書『人間の進化と性淘汰』の中でこの問題に触れ,クジャクのオスの尾羽は通常の生活には確かに不利でも,メスに対するアピールとしては有用であり,尾羽の長いオスの方がより多くの子孫を残せていると指摘しました。これが性選択(性淘汰)です。
しかし,性選択そのものにも謎は残ります。生存には不利であるかもしれない極端な外見を持つオスを何故,メスは好ましいつがいの相手として選ぶのでしょうか?
1つの仮説は,長く派手な羽を持つことが,オスの力の証明になっているのではないか,というものです。長く派手な羽は生存の上では邪魔になりますが,邪魔なもの(ハンディキャップ)を抱えたまま生きていけるオスは,何も持たずに生きているオスよりも生きる力に優れている,ということになります。
このように,ハンディキャップが大きければ大きいほど力のあるオスとしてメスに選ばれやすくなる,とする仮説を「ハンディキャップ仮説」といいます。
一方で,メスが長く派手な羽のオスを好むようになったのは遺伝によるものだとする考え方もあります。数多くのクジャクのメスたちの中で,長い尾羽のオスを好むメスの方が短い尾羽のオスを好むメスよりほんの少しだけ多かったとします。このメスたちが子を産むと次の世代は,尾羽の長いオスの遺伝子と尾羽の長いオスを好むメスの遺伝子を受け継いだヒナが他より少し多くなります。このヒナたちは育ってそれぞれ,羽の長いオスと羽の長いオスの好きなメスになります。羽の長いオス同士でも,少しでも長いオスの方がメスに好まれるため世代を繰り返すごとに羽はどんどん長くなりました。こうして今ではクジャクの羽は,生きていくのに邪魔になるほどの長さになった,というのです。
遺伝によってメスの好みとオスの外見的特徴が極端に偏っていく,というこの仮説を「ランナウェイ仮説」といいます。
ランナウェイ仮説ではメスに好まれる外見は,オスの強さや環境への適性などとは関係ありません。ごく初期の頃にはもしかしたら,羽の長いオスを好むことに何らかのメリットがあったのかもしれません。しかしそのメリットが失われても,1度始まった「偏り」は修正されることはありません。クジャクの尾羽が今後短くなるとすれば,長い尾羽を持つことによる生存へのデメリットが,メスを得られるメリットよりも大きくなった時になるでしょう。
写真:クジャクのオス ©mumbo