琉球を彩る植物たち

琉球列島には温度、湿度、照度などが異なるいろいろな環境があります。その様々な環境には、様々な植物が適応して生きています。

近年、琉球列島の自然の重要性が注目され、特に奄美大島、徳之島、沖縄島北部、西表島の豊かな植物相を含む自然を世界自然遺産に登録しようという計画が進められています。しかし、小さな島嶼からなる琉球列島では、各植物種の個体数はもともと限られています。また、亜熱帯の琉球列島で南限・北限として分布している温帯植物・熱帯植物は、わずかな温度変化でも致命的なダメージを受け てしまいます。つまり、多くの植物種が絶滅の危険をもちながら生きています。

ここではいくつかの環境にわけて、それぞれの環境に生きる琉球の植物について絶滅危惧種を中心に紹介します。

Column「絶滅危惧植物」

琉球列島を含む日本には約7000種類の植物が自生しています。環境省レッドリスト(2012)によりますとそのうち、2155種類、つまり4種に1種以上の植物が絶滅の危機に瀕していることになます。絶滅危惧植物はその危険度により、下のカテゴリーに分類されています。

絶滅(EX) 我が国ではすでに絶滅したと考えられる種

野生絶滅(EW)
: 我が国ではすでに絶滅したと考えられる種
野生絶滅(EW)
: 栽培下でのみ存続している種
絶滅危惧IA類(CR)
: ごく近い将来における絶滅の危険性が極めて高い種
絶滅危惧IB類(EN)
: IA類ほどではないが、近い将来における絶滅の危険性が高い種
絶滅危惧II類(VU)
: 絶減の危険が増大している種
準絶滅危惧(NT)
: 現時点では絶滅危険度は小さいが「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
情報不足(DD)
: 評価するだけの情報が不足している種

海岸の植物

白い砂浜、青い海は琉球列島のシンボルですが、この琉球列島の海岸は貴重な植物が生育する環境でもあります。ここでは琉球の海岸に生きる植物を隆起さんご礁、砂浜、海岸林の三つに分けて考えてみましょう。

 1. 隆起さんご礁


沖縄島万座毛

琉球列島の海浜ではデコボコした岩をよくみます。これは隆起さんご礁(琉球石灰岩)といい、サンゴ礁と砂が固まってできています。このサンゴ礁のくぼみに有機物がたまり、貴重な植物すみかになっています。隆起さんご礁に生きる植物の多くが肉質の葉をもち、乾燥に適応しています。

イラブナスビ
Solanum miyakojimense T.Yamaz. et Takushi (ナス科)
分布宮古島、伊良部島、来間島
絶減危惧ランク絶減危惧IA類
宮古群島の固有種。伊良部島では自生地が市指定天然記念物として保護されている。宮古島では絶滅した可能性がある。

トゲイボタ
Ligustrum tamakii Hatus.(モクセイ科)
分布渡名喜島・伊良部島・与那国島
絶減危惧ランク絶減危惧IA類
琉球列島の固有種。渡名喜島の2つの自生地のうち1つは消滅。もともと希少なうえに放牧馬などの踏みつけなどによって減少している。

アマミマツバボタン
Portulaca okinawensis E.Walker et Tawada var. amamiensis Kokub., Koh Nakam. et Yokota (スベリヒユ科)
分布奄美群島
絶減危惧ランク---
2014年、国立科学博物館の研究によって記載された奄美群島の固有変種(基本種は沖縄群島のオキナワマツバボタン)。個体数が少なく、奄美大島の希少動植物種に指定されている。

テンノウメ
Osteomeles anthyllidifolia (Sm.) Lindl. var. subrotunda (K.Koch) Masam. (バラ科)
分布大隈諸島を除く琉球列島各島・小笠原・台湾・中国南部・ハワイ・ポリネシア
絶減危惧ランク絶減危惧Ⅱ類
盆栽として利用されることがあり、園芸目的の採取によって数が減少 している。

 2. 砂浜

砂浜では波や強風のため、たえず砂が移動しています。特に琉球列島の場合には台風によって砂浜の形が変わってしまうことさえあります。そのため多くの砂浜の植物は旬旬したり、ロゼット状になったりして強風に飛ばされないように適応した植物体のつくりをもつています。

オオシマノジギク
Chrysanthemum crassum(Kitam.) Kitam.(キク科)
分布奄美群島
絶減危惧ランク絶減危惧Ⅱ類
日本本州のリュウノウギク、九州のサツマノギクとは染色体倍数関係にある。海岸の開発のため個体数が減少している。

ハマニガナ
Ixeris repens (L.) A.Gray(キク科)
分布日本各地・東アジア
絶減危惧ランク---
砂中に地下茎を飼旬させて繁殖する多年生草本。近縁種のオオジシバリと自然交配し、種間雑種(ミヤコジシバリ)をつくる。

ハマウツボ
Orobanche coerulescensStephan ex Willd.(ハマウツボ科)
分布日本各地・東~東南アジア
絶減危惧ランク沖縄県絶滅危惧IB類
カワラヨモギの根に寄生する一年草。日本本土ではよくみかけるが、琉球列島は絶滅が心配されている。

アツバアサガオ
Ipomoea imperati (Vahl) Griseb.(ヒルガオ科)
分布九州~熱帯アジア
絶減危惧ランク沖縄県絶滅危惧II類
茎を地下に潜らせ、風に飛ばされないようになっている。自然度の高い砂浜に生育する。もともと数が少ない上、海岸の開発と踏みつけによって減少している。
(撮影:伊東拓朗)

 3. 海岸林


石垣島仲筋村ネバル御獄

海岸に接する林は潮風から内陸を守る役割をなし、私たち人間にとつても大切な環境です。琉球の海岸林でよく見かける拝所、御獄(うたき)は神聖な場所とされ、その森林は今でも地元の風習によって守られています。しかし、多くの海岸林はオーストラリア原産のモクマオウなどの人工植林や開発などによって本来の姿を失いつつあります。

クロボウモドキ(バンレイシ科)
Monoon liukiuense (Hatus.) B.Xue et R.M.K.Saunders
分布西表島・波照間島・台湾(蘭嶼島)
絶減危惧ランク絶減危惧IA類
波照間島では小群落が御獄内にあるため開発から免れているが、西表島では農地開発によって自生地消滅の恐れがある。日本で唯一のバンレイシ科植物。(撮影:横田昌嗣)

インドヒモカズラ
Deeringia polysperma (Roxb.) Miq.(ヒユ科)
分布先島諸島・台湾~マレーシア
絶減危惧ランク絶減危惧IA類
分布の北限でもとから少ない上に、低地の開発によって減少している。国外産とはやや形態が異なることが指摘されており、分類研究が必要である。(撮影:横田昌嗣)

ユズノハカズラ
Pothos chinensis (Rafin.) Merr.(サトイモ科)
分布大東諸島・中国・台湾
絶減危惧ランク絶減危惧IA類
分布の北限で、日本では南北大東島に数箇所の産地があるだけである。著しい隔離分布をしており、系統地理・分類研究が必要である。

低地林


奄美大島

琉球列島にも海岸林から山地林の間に低地林があります。しかし、多くの低地林が農地や住宅地などに開発されています。僅かに残った低地林には貴重な植物が生育しています。

エノキフジ
Discocleidion ulmifolium(Mull.―Arg.) Pax et Hoffmann (トウダイグサ科)
分布 奄美大島・徳之島・伊平屋島・伊是名島・久米島・宮古島・石垣島・西表島・台湾
絶減危惧ランク絶減危惧IB類
雌雄異株の小高木。林縁のやや明るいところに生育する。宮古島では耕作地に隣接しており、絶滅が心配されている。

マツムラソウ
Titanotrichum oldhami (Hemsl.) Soler.(イワタバコ科)
分布石垣島・西表島・台湾。中国南部
絶減危惧ランク絶減危惧IA類
林床の水の滴る崖面に生育する。石垣島では1つの自生地しか知られていない。もともと数が少ない上に園芸用の採取により個体数が減少している。

ツルウリクサ
Torenia concolor Lindl. var. formosanaYamazaki(アゼナ科)
分布奄美大島・沖縄島・宮古島・台湾
絶減危惧ランク絶減危惧IB類
奄美大島では数箇所の自生地が確認されているが、沖縄島と宮古島では、近年、確認されておらず、絶滅した可能性がある。

リュウキュウスズカケ
Veronicastrum liukiuense (Ohwi) Yamazaki(オオバコ科)
分布奄美大島・喜界島。沖縄島
絶減危惧ランク絶減危惧IA類
湿った環境に生育する。花冠は白色~紅紫色。基準産地は沖縄島だが、その自生地は絶滅した可能性がある。

山地林


沖縄島北部(やんばる)

琉球列島の山地には、イタジイやオキナワウラジロガシなどのブナ科植物を主体とした常緑広葉樹林が広がっています。いまでも良好な状態を保っている山地林がみられるのは、奄美大島、沖縄島北部(やんばる)、西表島などです。

イシガキスミレ
Viola tashiroi Makino var.tairaeNakajima (イワタバコ科)
分布石垣島
絶減危惧ランク絶減危惧IA類
石垣島の一つの河川だけに分布する。ヤエヤマスミレに似ているが葉がより三角になる。

タイワンシシンラン
Lysionotus apicidens (Hance) Yamazaki (イワタバコ科)
分布沖縄島
絶減危惧ランク絶減危惧IA類
1994年に米軍管理の土地が返還され、初めて国内での分布が確認された。沖縄島に2つの自生地が知られている。(撮影:横田昌嗣)

ナンゴクホウチャクソウ
Disporum sessile D.Don ex Schult. et Schult.f. var. micranthum Hatus. ex M.N.Tamura et M.Hottaa(ユリ科)
分布トカラ列島~奄美群島
絶減危惧ランク ---
琉球列島の固有変種。基本変種のホウチャクソウよりも小型で花に強い芳香があることから区別される。

ユワンツチトリモチ
Balanophora yuwanensis Agusawa et Sakuta(ツチトリモチ科)
分布奄美大島
絶減危惧ランク ---
奄美大島の固有種。高地の雲霧帯に生育する。ヤクシマツチトリモチに含める見解もある。

渓流沿い


沖縄島北部(やんばる)

琉球列島には平地があまりなく、河川は山の谷間を流れます。そのため、河川の幅は狭く、ほどよく樹冠で覆われます。その樹冠で覆われた内部では湿度と低温が保たれた特殊な環境がつくられます。そのような渓流沿いには暑さや乾燥に弱い植物が生育しています。

オリヅルスミレ
Viola stoloniflora Yokota et Higa
分布沖縄島
絶減危惧ランク野生絶減
沖縄島の固有種。長いストロンを出し、その先に新個体や花をつけることから「折鶴すみれ」の和名がつけられた。唯一であった沖縄島の自生地はダムで水没してしまい、野生では絶滅した。(撮影:横田昌嗣)

アマミカタバミ
Oxalis exilis A.Cunn. (カタバミ科)
分布奄美大島
絶減危惧ランク絶減危惧IA類
葉が矮小化した多年草。奄美大島の1つの河川のみに分布する。近縁種は近隣地域にみられず、オーストラリアに分布すると考えられている。もとより個体数が少ない。

アマミクサアジサイ
Cardiandra amamiohsimensisKoidz.(アジサイ科)
分布奄美大島
絶減危惧ランク絶滅危惧IB類
奄美大島の固有種。日当たりがよく、湿った環境に生育する。西表島・中国・台湾に分布する種に含める分類見解もある。

Column「水流に適応した渓流沿い植物」

琉球列島の河川は幅が狭いため、大雨が降るとすぐに増水してしまいます。その増水すると水没するところを渓流帯といいます。渓流帯に生きる植物は増水時の水流圧に耐えられるように葉を細くするなどの形質を獲得して適応進化しました。そのような植物を渓流沿い植物といいます。

ナガバハグマ
Ainsliaea oblonga Koidz.(キク牙斗)
分布奄美大島・沖縄島。西表島
絶減危惧ランク絶減危惧Ⅱ類
オキナワテイショウソウ(写真右)が川の水圧を耐えられるように葉を細くして適応分化したと考えられている。ダム建設などにより個体数が減少している。琉球列島の固有種。

リュウキュウツワブキ
Farfugium japonicum (L.f.) Kitam. var. luchuense (Masam.) Kitam.
分布沖縄島。西表島
絶減危惧ランク準絶減危惧
葉身の幅にツワブキ(写真左)との中間型が知られており、種分化中の植物と考えられている。ダム建設などにより個体数が減少している。琉球列島の固有変種。

マングローブ


奄美大島住用

琉球列島の大きな河川の河口では干潮時は干上がり、満潮時には海水に水没してしまう特殊な環境に林が発達します。その林をマングローブとよび、そこに生育している植物をマングローブ植物といいます。マングローブ植物は乾燥に耐えるクチクラ層を発達させた葉、泥の中での根の酸素不足を補う呼吸根、不安定な地面に立つための板根などの形態形質を獲得して過酷な環境に適応しました。

ミミモチシダ
Acrostichum aureum L.(イノモトソウ科)
分布八重山群島・台湾・中国南部~アフリカ・熱帯アメリカ
絶減危惧ランク絶減危惧IB類
マングローブ上流域の湿地に生育する。国内では琉球列島の5つの自生地しか確認されていない。西表島の1つの自生地は国指定天然保護区域に指定されているが、外来植物が進入して生育の場が失われる可能性がある。

ハマジンチョウ
Myoporum bontioides (Siebold et Zucc.) A.Gray(ハマジンチョウ科)
分布日本本州~琉球・台湾~インドシナ
絶減危惧ランク絶減危惧Ⅱ類
花は漏斗形で淡紫色を帯び、内面に赤褐色の斑がある。沖縄島と西表島のいくつかの自生地は埋め立てや道路工事などによって個体数が少なくなっている。