2025-01-23

マイクロCTが解き明かす昆虫と昆虫がつくるものの3次元的構造


マイクロCTで見る虫こぶの成熟過程

図4 カシワハスズタマバチの虫こぶの内部構造

マイクロCTでは、条件次第で観察対象を生かしたまま内部構造を観察することもできます。その特性を利用して、虫こぶの内部構造の成熟過程を一つのサンプルで経時的に観察するという、世界初の取り組みにも挑戦しました。その結果、これまでは成熟段階の異なった複数のサンプルを用意して解剖し、類推することしかできなかった成熟過程を、1つのサンプル内で観察し、記録することに成功しました。

なかでも興味深い結果が得られたのが、国内で発見した新種のタマバチ(カシワハスズタマバチと命名)による虫こぶの成熟過程です。本種の虫こぶは、内部が空洞になっており、タマバチの幼虫が入った小さな球形の部屋が空洞内を自由に転がる、という国内ではほかに類のない珍しい構造をしたものでした。マイクロCTを用いることで、その興味深い構造がどのように形づくられていくのかの過程を可視化することができました。

昆虫と昆虫がつくるものの多様な形がもつ意義は、まだまだ明らかになっていないものばかりです。光学顕微鏡や電子顕微鏡、そして近年急速に普及が進んでいるマイクロCTなど、さまざまな観察手法と、研究者によるさまざまな視点を組み合わせることで、その理解が今後ますます進んでいくことが期待されます。

関連論文:
Ide, T. and A. Koyama. 2023. The formation of a rolling larval chamber as the unique structural gall of a new species of cynipid gall wasps. Scientific Reports, 13(1): 18149.

<執筆>
国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ 研究主幹 井手竜也