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縄文時代人と(古墳時代人が似ている)渡来系弥生時代人の男性頭蓋
2014年4月3日更新
この分析では、古墳時代における頭蓋計測値の地理的変異パターンが縄文時代中・後・晩期のそれと同じであるか否かが検討されました。また、もしこれら変異パターンに差があるならば、それはどんな原因によるのか、という点に関しても、若干の環境要因について検討を行ないました。もちろん、これも、頭蓋形態変異の規則性・限界とその原因を探るための一連の分析の一つです。詳細はMizoguchi (2010)をご覧下さい。
分析されたデータは、7つの頭蓋計測項目についての男性集団での平均値です。全て文献調査によるもので、具体的には、6つの地域からの縄文時代人標本、1つの弥生時代人標本、5つの弥生時代人標本における平均値です。
頭蓋計測値の全体的な地理的変異パターンは、全ての対象集団の間のマハラノビスの汎距離(D2)を使って表わすことにしました。
環境変数は緯度、経度、年平均気温、年平均相対湿度、年間降水量の5変数です。ただし、これらは全て現代のもので、縄文時代でも古墳時代でも同じであったという仮定の下に使いました。
地理的変異パターンの類似性の有意性検定は、マンテルの行列順列検定法により行ないました。
また、子孫集団に対する祖先候補集団の貢献度をQ-モードのパス解析法により推定しました。この方法を使えば、比較的大きな貢献度を持つ未知の祖先集団あるいは環境要因の存否も予測できます。
Q-モードのパス解析法 (Mizoguchi, 1986)
なお、情報の重複を避けるために、このQ-モードパス解析で用いる変数としては、頭蓋計測値の平均値に対する主成分得点を計算し、それ使用しました。
Q-モードパス解析で得られた残差変数と環境変数の間の群間関連は、ケンドールの順位相関係数を使って推定しました。
縄文・古墳時代における頭蓋計測値と現代の気候変数の地理的変異パターンをマンテルの行列順列法によって比較した結果は以下のとおりです。
Q-モードのパス解析の結果は以下のとおりです。
図1: Q-モードのパス解析(縄文5、古墳5集団)
縄文時代人5地域集団とそれに対応する古墳時代人5地域集団のQ-モードのパス解析(図1)の結果、古墳時代人頭蓋の地理的変異の一部(残差変数)が、有意に現代の年間降水量の地理的変異と関連(P = 0.05)していることが示されました。これは、古墳時代人と水稲耕作との強い結びつきを示唆するものかもしれません。
図2: Q-モードのパス解析(縄文6、弥生1、古墳5集団)
次に、縄文時代人6地域集団、弥生時代人1地域(北九州)集団、古墳時代人5地域集団についてのQ-モードパス解析を行ないましたところ、古墳時代人への貢献度に4つの地理的勾配が認められました(図2)。それらのうち、北九州弥生時代人の貢献度は、北へ行くほど減少する傾向が認められました。ここで示された勾配は移住の跡かもしれませんが、結論を下すには時期尚早かと思われます。
また、どの地域の縄文時代人も北九州古墳時代人への貢献度についてはほぼ同じ程度でした(図2)。これは北九州が昔から混血の中心地であったことを示唆するものかもしれませんが、やはり、更なる検討が必要だろうと思います。
残差は実質的にゼロでした。これは、水稲と関連ある北九州弥生時代人データの追加による結果なのかもしれませんが、まだまだ断言はできません。
以上、示唆的な結果は得られましたが、縄文時代から古墳時代にかけての移住・拡散経路や環境要因の影響の確認には、もっともっと地域別の古人骨ならびに古環境データの収集が必要だと思われます。
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