[[[[ 脳頭蓋人工変形の頭蓋計測値に対する影響 ]]]]



典型的な人工変形頭蓋(Oetteking [1930]より改写)


**** 溝 口 優 司 ****

2014年4月4日更新


■ 前書き

脳頭蓋の人工変形は、少なくとも更新世末期の古くから、世界中で行なわれていました。これは、ある見方をすれば、自然の人体実験とでも言いうるものですが、外から加えられた力がどのように生物の形態に影響を及ぼすか、ということを調べるには持って来いの習慣でした。今回、我々(Brown and Mizoguchi, 2011)は、いくつかの遺跡から出土した変形頭蓋を利用して、実際に脳頭蓋の変形の仕方によって、顔面のどの部分が影響を受けやすいのかを調査しました。これは、頭蓋形態の自然状態における変異の規則性・限界を考察する上でも非常に参考になる情報を与えてくれるものです。

■ 材料・方法

用いたデータは、文献から得られた個体別の頭蓋計測値です。それらは北米北太平洋岸の先住民とイリノイ西部・中央部アメリカ先住民、古代ペルー高地人の男女のデータで、それぞれ非変形頭蓋と変形頭蓋の両方のものを含んでいます。
 単変数の比較では t-検定などを、また、多変量の比較では主成分分析などを使用して、非変形頭蓋と変形頭蓋はどこが違うのか、あるいは、どの部位とどの部位がともにどんな人工変形に応じて同じ方向に変化するのか、などを調べました。

■ 結果と考察

3つのアメリカ先住民集団についての分析から、いくつかの頭蓋・顔面計測項目が特に強く脳頭蓋の変形から影響を受けることが示されました。ただし、影響を強く受ける計測項目は集団によって異なります。
 これまでも、脳頭蓋の人工変形は顔面頭蓋にはあまり影響を及ぼさない、否、顔面にも影響する、といった正反対の報告がありましたが、やはり一概には言えないことを確認しました。
 本研究計画の目的からは外れますが、以上のような検討の結果、オーストラリアの更新世標本の中では最大の個体数を誇るが変形頭蓋の個体を多く含むク―ブール・クリークという化石標本についても、特定の頭蓋・顔面計測項目を選べば、妥当な類縁関係分析が可能である、ということが示されました。詳細はBrown and Mizoguchi(2011)をご覧下さい。


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 頭蓋・四肢骨計測値間の群内相関の主成分分析(関連分析)


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