2008-09-01
金とレアメタル−資源枯渇を回避するために− (協力:地学研究部 宮脇律郎)
今注目が高まる『金』
今年8月8日から24日まで開催された,北京オリンピック。日本選手団は選手・役員合わせて576名と過去最多,熱戦の模様やメダルの吉報が日々報道され,部屋で中継やニュースにくぎづけ…という方も多かったことでしょう。
オリンピックをはじめとして各種の競技大会でメダル,といえば金・銀・銅が一般的(※1)です。特に金メダル獲得者への注目と賞賛・祝福は敢えてここで説明するまでもないことでしょう。
さて,この「金」,科学的には銀・銅と同じく周期表の第11族に属します。熱や電気を通しやすい,自然界から単体で産出するなどの共通点がありますが,銀や銅が他の元素と反応し易いのとは対照的に,金は非常に反応性の低い金属です。空気中では腐食されることはほとんどなく,一部(※2)を除いて酸やアルカリの影響も受けません。燃やしてもほとんど蒸発せず融解するのみで,温度を下げれば元の固体に戻ります。
このような非常に安定な性質から,金は有史以来世界中の様々な地域で富や権力の象徴として,また宗教的意味を付与されて重要視されてきました。銀・銅と共に貨幣の原材料ともされ,日本でも戦国時代以降,各地の戦国大名によって金貨・銀貨が盛んに造られて流通し,江戸時代に始まる貨幣制度の端緒となりました。
現在,金は私たちの身近に,様々な分野で利用されています。飲食物によって腐食されにくく,人体に与える影響が少ないと考えられることから歯科治療の歯冠に。電気を通し易く錆び難いことから,コンピューターなどの電子回路に。薄く,また長く引き伸ばすことができるため,金箔或いは金糸として美術・工芸品に。一方ではその 柔らかさが逆に変形・傷を招く可能性がある為,銀や銅,パラジウムなどとの合金が使われることが多くなっています。
しかしこのような素材として使える金には限りがあります。
イギリスの貴金属リサーチ会社,ゴールド・フィールズ・ミネラル・サービシズ(GFMS)の報告によれば,2006年末の時点で現在地上にある世界の金の総量は約15.8万トン。このうちの約半分が宝飾品として使われており,約5分の1は各国など公的機関が保有,個人投資家の元には全体の約6分の1が保有されています。公的機関保有のうち,日本にあるのは800トン弱に過ぎません。
同じく2006年の日本の金利用を見てみると,自国金鉱山からの産出及び海外からの輸入,リサイクルを合わせた獲得量は約180.5トン,電子機器や歯科,メッキ,宝飾などでの消費量は約181.7トンで,若干ですが需要が供給を上回っています。全需要の約77%が工業及び歯科用で,これは世界の工業・歯科用の金利用の約3割を占め、我が国特有の傾向が現れています。
現在,特に中国・インドなどを中心に電気・電子機器素材としての金の需要は着実に増大しつつあります。このままのペースで消費が続けば,地球上の金の埋蔵量はあと20年でゼロになるとも言われており,まさに枯渇の危機といえます。
今回のホットニュースでは金資源のリサイクルの実情,及び課題を紹介します。
※1 第1回近代オリンピックでは優勝者のメダルが銀,準優勝が銅で金メダルはありませんでした。また今回の北京オリンピックのメダルデザインでは,近代オリンピックの歴史上で初めて,裏面にそれぞれの色に合わせた「玉(ぎょく)」が使われました。
※2 金を溶かすことができる液体は,濃塩酸と濃硝酸を体積比3対1で混合した王水や,青酸化物水溶液などごく少数です。ヨードチンキ(ヨウ素のエタノール溶液。消毒用に販売されているのは希ヨウ素液と言って2倍に希釈したものです)もそのひとつで,金メッキや薄い金箔などの上にたらせば溶ける様子が観察できます。