私たちの宇宙は距離に比例した速さで膨張しています。この、
宇宙の膨張
のわりあいがハッブル定数です。ハッブル定数がわかれば、ある距離での膨張速度がわかります。とすると、距離を膨張速度で割れば、宇宙が膨張を始めたときがいつか、すなわち宇宙の年令がわかることになります。
そこで、宇宙の年令を知るためには、このハッブル定数を正確に求めなければなりません。これはじつはたいへん難しいことでした。ハッブルが最初に求めた、ハッブル定数は500ぐらいでした(ここでは、距離が326万光年増えるごとに、膨張速度が秒速何km増えるか、をあらわす数字)。
その後の研究でハッブル定数の値はしだいに小さくなりました。そして現在では、ハッブルの名前をとった、ハッブル宇宙望遠鏡の活躍でかなり正確にわかってきました。それは、上記と同様な数字で表すとほぼ72で、誤差は約10%です。この数値から、宇宙の年令ははぼ130億年と計算できます。
しかし宇宙の年令は、ハッブル定数だけでは決めることができません。じつは、宇宙の中には物質がありますので、その物質の間に働く万有引力が宇宙の膨張を引きもどす働きをしています。つまり、膨張にブレーキをかける働きがあるのです。すると、物質がある私たちの宇宙は、昔はもっと速いスピードで膨張をしていたと考えられます。膨張速度がしだいに減速しているわけです。
じつは130億年という年令は、宇宙に物質が何もないと考えたときの値でした。宇宙の物質の量を正確に求めることは、たいへん難しいことです。
次の質問
でお答えするように、宇宙の膨張が止められてしまうぎりぎりの量ほど、宇宙に物質があるとしたら、宇宙の年令は約90億年ということになります。
ところが、この他に球状星団の中でもっとも年老いた星の年令が約120〜130億年という研究もあります。宇宙の中にある星の年令が宇宙より古いことは考えられません。また、遠方の銀河に現れる超新星の研究から、ごく最近「宇宙の膨張は加速している」との結果がえられました。すなわち、昔は今よりもっとゆっくり膨張していた、ことになります。とすると、宇宙の年令はさらに大きい可能性もあります。
現在の知識では、宇宙の年令は約130億年ぐらいだろう、というぐらいまでしかいえないのです。
さまざまな宇宙モデルとその年令
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宇宙背景放射観測衛星の結果
2003年2月11日NASAは宇宙背景放射観測衛星WMAPの観測から、宇宙の年令が137億年で誤差は2億年という高い精度で求められたことを発表しました。WMAPは2001年6月に打ち上げられた衛星で、1年あまりの観測を行った結果です。
宇宙の晴れ上がりのときの光が、現在は宇宙背景放射として観測されています。この光は絶対温度3度(精密には2.73度)で全天に広がっていますが、その温度にわずかなゆらぎがあるのです。これは、1989年に打ち上げられた前の宇宙背景放射観測衛星COBEによって観測されました。このゆらぎは、宇宙の晴れ上がりのときの物質の分布のようすを反映しているので、それを再現するような宇宙モデルを作ることにより、宇宙の進化のようすや年令を正確に調べることができます。
以前のCOBE衛星は1万分の1度の温度のゆらぎを検出できましたが、天空上での角度の分解能(分離して見ることができる能力)は角度の7度もあり、いわばピンボケな観測でした。WMAP衛星は温度で100万分の数度、角度で0.3度の分解能をもち、宇宙背景放射のゆらぎをくわしく観測したのです。
このゆらぎを再現するようなモデルを選んだところ、宇宙の年令は137億年となりました。また、ハッブル定数は71、宇宙は平坦で膨張は永遠に続くこと、見える物質は宇宙の質量の4%で、ダークマターが23%、あとの73%は真空のエネルギーともよばれる、成因不明のものであることなどや、初めて恒星が生れたのが宇宙誕生からわずか2億年後であることなどが明らかになったとしています。
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