微細藻類のHABs

8. カビ臭

シアノバクテリアがつくり出すカビ臭物質はジェオスミンと2-MIB(2-メチルイソボルネオール)の2つです。単独で臭いを嗅ぐとジェオスミンは雨が降った後の土の臭い、2-MIBは墨汁の臭いがします。いずれも単独ではそれほど不快な臭いではありませんが、飲み水や食品の中にごく僅かでも入ってしまうと、違和感もあり不快な臭いとなります。

日本ではカビ臭問題は主に水道水と水産物(特にシジミ)で生じています。これらのカビ臭物質自体は人や水産物に対しては、ほとんど毒性を示しませんが、その不快さのために、大きな社会的な問題になります。

シアノバクテリアでカビ臭の原因となる生物としては2-MIBを産生するプセウドアナベナ属(Pseudanabaena)が知られています。私たちの研究グループではこの仲間を長年研究しており、今までに3種5分類群を新種として記載しました。日本でカビ臭を産生するプセウドアナベナ属は、現在のところ私たちが新種記載したものの他には知られていません。最近、宍道湖ではCoelosphaerium sp.が産生するジェオスミンによるヤマトシジミのカビ臭が問題になっています。

プセウドアナベナ属

写真: プセウドアナベナ属(Pseudanabaena)

水道水のカビ臭は、近年のオゾンを用いた高度浄水処理によって取り除くことができますが、処理に費用がかかるため、一部の自治体にしか普及していません。高度浄水処理を行っていない所では、活性炭処理によってカビ臭を取り除いていますが、活性炭も費用がかかるので、顕微鏡で日々微細藻類を検鏡し、カビ臭が発生しそうであれば活性炭処理を行うなどの調整が行われています。このような処理方法などの工夫により、水道水のカビ臭が問題視されることは少なくなってきました。

一方、ヤマトシジミ等の水産物のカビ臭については、ブランド化された水産物の価値を損なう可能性もあり大きな問題となりつつあります。

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