研究室コラム・更新履歴

11月21日

10マイクログラムでわかる太古の海の変動
電子顕微鏡で撮影した有孔虫の化石

私が専門とする小さな化石「微化石」の中でも、海に生息する有孔虫という単細胞の動物プランクトンは、炭酸カルシウムの殻を作ります。大きさは、0.2〜0.5mmで、重さにすると10〜100マイクログラムほどです。この炭酸カルシウムの殻を当館が所有する質量分析計にかけることで、殻が作られたときの水温や海水の栄養状態を表す酸素や炭素の同位体比が分析できます。有孔虫の寿命は、だいたい1ヶ月ほどなので、一個体ずつ分析すると、過去のある時代について、1ヶ月単位の細かい変動のパターンがわかります。これは、過去の黒潮の蛇行などを表す重要な情報となります。こうした短期の変動を捉えられるのは、有孔虫の寿命と、微量な分析が可能となる技術が合わさったおかげです。
(地学研究部:久保田好美)

11月14日

普通種なのに謎だらけ
筑波実験植物園内の絶滅危惧植物温室で、カントウカンアオイが開花しています。カンアオイの仲間は春に開花するものが多いのですが、いくつかの種では秋や冬に咲くものがあり、このカントウカンアオイも秋咲きの代表的なものです。本種はカンアオイの仲間の中でも個体数が多く、関東地方から中部地方にかけて里山で比較的普通に見られる植物にもかかわらず、意外にもその生活史の実態はよく分かっていないようです。僕は特に、花にどんな昆虫がやってきて花粉が運ばれ、実を結ぶかについて興味があるのですが、実際に調べてみると花にやってくる虫の姿はほとんどなく、この謎一つを取ってもなかなか解明は容易でないことを思い知らされます。ところが最近、当研究室の学生が根気よく調べてくれて、ベールに包まれた謎がようやく少しずつ明らかになってきました。その答えは、近いうちにご報告できるかもしれません。
(植物研究部:奥山雄大)

11月7日

公開データベース
当研究室では、ストランディング(海棲哺乳類を含む海の生物が、生死を問わず自ら海岸に打ち上がってしまう現象)調査や学会、講義などの館外業務が静かなときは、溜まった作業をしています。その1つが海棲哺乳類情報データベースの作成や整理です。ストランディング個体は、1個体から骨格や冷凍、液浸標本など複数の標本が生まれます。データベースにも関連する情報を記録し、一部を公開しています。海棲哺乳類は今や調査・研究のために捕獲することが難しい分類群であるため、どこにどんな研究資料や標本があるのか?を公開することは国内外の研究者にはとても重要です。
(動物研究部:田島木綿子)

10月31日

フィールドワークの現場から、無形のノウハウを発掘する
ケニア、ナカリの調査地にて。

今年の夏は、アフリカのケニア、その北中部に位置するナカリというフィールドで発掘調査を行ってきました。このような調査は一般的に、様々な機関の研究者が集まってチームをつくり、現地コミュニティの協力を得ながら進めます。調査の成功には、調査者がこれまでフィールドで培ってきた経験が大きく関わります。しかし近年主導してきた研究者の引退などにより、このような無形の知が失われようとしています。それに危機感を持った私は、10月に行われた日本人類学会で、フィールドワークをテーマとしたシンポジウムを企画しました。チームを組織する上で重視していることや、どのように現地コミュニティと関係性を築いていったかなどについて、ベテラン研究者の生の声を聞ける貴重な機会となりました。今後の人類学関連の海外調査に役立てられることを期待しています。
(人類研究部:森田 航)

10月24日

君たちはどこから来たの?
南太平洋に位置するバヌアツ共和国ペンテコスト島の岩石の研究を進めています。この島には、漸新世(約3,400万年前〜約2,300万年前)にできた火山列島の岩石が分布しているとされています。島はジャングルに覆われ、岩石の露出はよくありません。でも海岸のレキを探すと、もともとの鉱物や組織がよく保存された、新鮮なカンラン岩・ハンレイ岩・閃緑岩・玄武岩が見つかります。これは火山列島の地下深部から地表付近までを構成していた岩石たちが島のどこかに存在している可能性が高いことを示しています。持ち帰って分析してみると、南太平洋の島々の成り立ちについて、これまでの報告とは異なるとても面白い結果が得られました。論文として報告するには、何としても岩石が露出している現場を見つける必要があります。このコラムが配信される頃、再び島を訪問してジャングルをかき分けながら探索してきます。
(地学研究部:谷 健一郎)

10月17日

ショクダイオオコンニャクの結実後
2023年5月に奇跡的に2株が同時期に開花し、人工授粉に成功して日本初の結実となったショクダイオオコンニャク。果序が倒れたのは2024年7月16日と、開花から416日もたってからのことでした。9月13日には土の中にある塊茎(イモ)の植え替えを行いました。前回の植え替え時(2023年2月)の重さは75キロ。その後、開花・結実し、葉は出ずエネルギーを消費するばかりだったイモ。どれほど小さくなったでしょう。答えは21キロ減の54キロ!結実すると枯れるという噂もあったので皆で心配していましたが、新しい芽が元気に伸びはじめていました。日々の成長変化を間近でみられるのは植物園で働く特権ですね。
(植物研究部:堤 千絵)

10月10日

博物館における害虫とのたたかい
一般的に博物館とは収蔵施設をもち、標本やさまざまな資料を保存していく機能を有します。そしてその保存活動において、害虫や害獣からの被害を防ぐ工夫や対策が張り巡らされてきました。例えば、薬品を用いた燻蒸や、温度・湿度管理、害虫のモニタリングなどです。先日、昆虫収蔵室の標本整理をしていると、奈良の正倉院で戦後すぐに採集された文化財害虫の標本が出てきました。日本における最古の博物館の一つとも言える同院においても、1000年以上前から文化財の保存にともない、害虫とのたたかいが続いてきたのかもしれません。当館は世界的に見れば歴史の浅い博物館ですが、質の高いナショナルコレクションを構築するよう努力を続けてきました。それらを虫害から守り、次世代にコレクションを引き継いでいかなければならないと考えています。
(動物研究部:清 拓哉)

10月3日

地震について学べる博物館(台湾編)
保存された中学校の陸上トラックを横切る断層と壊れた校舎

先日、台湾の国立自然科学博物館の方々の案内で、台中市にある921地震教育園区を訪れてきました。この場所は、1999年9月21日に台湾で起きたマグニチュード7.3の地震について学べる場所です。25年前の被害を今に伝えるため、地震によって倒壊した建物や地表に現れた断層が保存され、今後の防災や教育のために展示施設なども併設されています。台湾の人たちは、日本で大地震が起こると、とても暖かい支援をしてくださっています。お互い地震が多い国なので、これからも助け合っていければと思います。
(理工学研究部:室谷智子)