研究室コラム・更新履歴

2月20日

二枚貝をniku-nukiするコツ
現生の貝類標本を作る時、日本人は広く「茹でて殻から軟体部(肉)を取り外す」ことをしていて、これを「肉抜き」と呼んでいます。日本で出版された図鑑の末尾には必ず肉抜きの方法が書かれていましたから、貝類学を志す者は肉抜きが刷り込まれていて、肉を無傷で完璧に外すよう日々技術向上に励んでいます。この肉抜き、実は奥がとても深いのです。種類ごとに最適なお湯の温度と茹で時間があり、多くの経験が必要です。肉抜きした軟体部は解剖にもDNA塩基配列決定にも使うことができるオールラウンダーながら、日本国外でその真価は知られていませんでした。かつて私たちが国際学会で放談し、その後論文にしたところ、niku-nukiとして世界中で使われるようになりました。開催中の企画展「貝類展」(3月2日まで)でもniku-nukiを紹介しています。扱う人口の少ない(?)二枚貝は未だコツが知られていないようです。そのポイントは冷水から茹でる、貝柱は背中側(左右がくっついている方向)から貝殻に沿ってはがす、の2つ。「ふっくらした極上のアサリの味噌汁」が茹でる目安です。煮込み厳禁。食卓に二枚貝が登場する時は、niku-nukiにチャレンジしてみてください。
(地学研究部:芳賀拓真)

2月13日

植物が花を咲かせる季節
なぜ多くの植物は、春に花を咲かせるのでしょうか? 端的に言うならば、植物にとって開花に適した季節だから、と考えられます。暑すぎず寒すぎず、乾燥しすぎない春は、植物体そのものがダメージを受けにくい気候です。同様に、昆虫も活発に動きやすい気候でもあります。どちらが先というわけではありませんが、春には、花が多く咲くため、花を訪れる昆虫が活発に動き、昆虫が活発に動くため、昆虫に花粉を運んでもらう花が多く咲きます。一方で、春以外に咲く植物もいます。それらは、他の植物と開花期をずらすことで、花粉を運んでくれる昆虫などを巡った植物間の競争を避けるようです。また、春がない地域、例えば熱帯のように季節性が乏しい地域では、一年中だらだらと咲く植物や、数年に1回しか咲かない植物など多様な開花期が観察されています。こうした植物の多様な開花期の背景に、どのような生存戦略が反映されているのかを追求していくのはとても楽しいです。
(植物研究部:永濱藍)

2月6日

秘密道具「イエローパン」
ごみのポイ捨て?道端の黄色い皿の正体は…

ある地域に生息する生物の種類を調べる調査(生物インベントリー)では、調査対象を効率的に探し出すため、さまざまな道具が活用されます。その一つがハチ類の調査に用いられる黄色い皿、イエローパンです。地面に並べ、水を注ぎ、台所用洗剤を1滴垂らして待つだけで、黄色に惹かれて飛び込んでくるハチを捕獲できます。秘密道具のようなこのお皿、実はパーティー用の取り皿として市販されています。身の回りのものを活用した調査道具は結構多いのです。
(動物研究部:井手竜也)

1月30日

同位体地図を片手に:古代社会への探訪
同位体分析に用いる古代人の歯

同じ元素でも重さの違うもの(同位体)がどのくらいの割合(同位体比)で地質中に含まれているかは、場所によって違います。この分布を調べて同位体地図をつくり、考古遺物の古人骨などに含まれる同位体比と比較することで、古代のモノやヒトの移動を調べる研究手法があります。昨年11月に、この同位体地図を考古学にどう活かせるのかをテーマにした国際シンポジウムが、京都の総合地球環境学研究所で開催されました。アンデス古代神殿の埋葬者の出身地やアルゼンチンの古代農耕民の移動、マヤの王朝創始者の出身地、加曾利貝塚の動物資源利用の変化など、興味深い話題が挙げられました。今後、シンポジウムの内容を書籍化する予定ですので、お手にとって頂けますと幸いです。
(人類研究部:瀧上 舞)

1月23日

巳にちなんだコケ植物
2025年の干支は「巳」です。1月のコラム執筆の機会をいただき、今回は巳にちなんだコケ植物を紹介します。ジャゴケ(蛇苔)は、都市の路地から高山の岩や崖、地面に生えているコケ植物です。和名は植物体の表面の模様がヘビの鱗に似ていることに由来します。巳年生まれの私には親しみを感じるコケのひとつです。ジャゴケはその見た目以外にも松茸に似たにおいを放つというユニークな特徴があります。ぜひ野外で手に取ってにおいをかいでみてください。
(植物研究部:井上侑哉)

1月16日

普通種であるジョロウグモの意外性
サツマニシキを捕食中のジョロウグモ

昨年開催された特別展昆虫MANIACでは、ジョロウグモが10年ほど前にアメリカに侵入し現地では外来種として話題になっていることを取り上げました。このクモは国内では広く一般的にみられる種、いわゆる普通種ですが、興味深い事例に遭遇したこともあります。上の写真は、道路脇に張った網に引っかかった、日本一美しい蛾として有名なサツマニシキを捕食しているところです。サツマニシキは実は毒を持っており、綺麗で目立つ外観は警告色とも考えられます。しかしジョロウグモには関係がないようです。こうした毒を持つ獲物に一体どのように対応しているのか気になります。
(動物研究部:奥村賢一)

1月9日

国際量子科学技術年に寄せて
仁科芳雄が長岡半太郎に宛てた手紙(1928年1月27日付)(当館所蔵)

あけましておめでとうございます。突然ですが、2025年は国連が宣言した「国際量子科学技術年」。現代のサイエンスの基盤の一つである「量子力学」と呼ばれる微視的世界の理論が、およそ100年前に建設されたことを記念するもので、各国で様々なイベントが企画されています。当館には、日本の物理学者たちがこの新理論とその構築に当時どのように反応し、あるいは関わったかを伝えるいくつかの資料があります。ここでご紹介するのは、仁科芳雄が1928年に長岡半太郎に宛てた手紙。微視的世界の探究を牽引したコペンハーゲンのニールス・ボーアのもとで、錚々たる物理学者らと肩を並べて研究した留学中の仁科は、学界を率いる長岡に、ボーアを日本に招待すべきだと力説しています(1937年に実現)。「日本の物理界が刺戟を受けて直接の利益ある」とともに「将来の日本の物理学を欧米に紹介しその親善を増し進歩を早める上に於て間接の利益ある事と存ぜられ候」などとその理由をあげています。新たな理論を伝え広めようとするだけでない、日本の物理学界の未来を思う仁科の熱意が伝わる手紙です。
(理工学研究部・河野洋人)

1月2日

小さな歯の持ち主は?
小型哺乳類は骨が化石として残りにくい分、小さいけど頑丈な歯が研究ツールになります。堆積物をふるいがけして集めた砂粒を顕微鏡で丹念に見るという気の遠くなるような作業で歯を探していきます。顕微鏡をのぞくと、鉱物の破片、木片、種子、魚の歯や骨、何か全くわからないものなど、たくさんの情報が目の中に飛び込んできます。ピンセットで粒をはじきながら探すので最初は乗り物酔いのようになることも。先日「この地層からは小さい哺乳類は出てこない」という前評判を覆し、ボランティアさんが小さな哺乳類の歯を探し当て(写真中央の下)、びっくりしました。ネズミ、コウモリ、モグラ、ハリネズミとも異なる変わった特徴があり、該当するような現生種が見当たらない...これが2度目のびっくりです。化石の年代はおよそ1800万年前。どんな動物の歯なのか、なんとか答えを探したいと思います。
(地学研究部:木村由莉)