ミャンマーで越冬する鳥が日本列島を含む旧北区地域から広く渡来していることがDNAバーコードによって明らかになった
多くの渡り鳥は経線に沿って南北に渡りますが、海や砂漠などの地理的障壁を回避することも知られてきました(Irwin & Irwin 2005)。ミャンマーの北にはゴビ砂漠、チベット高原、ヒマラヤ山脈という地理的障壁があり、それを回避してアジア大陸の北方で繁殖する渡り鳥が越冬に来ます。典型的にはシベリアヨシキリのように障壁の西側を通る東欧から中央アジア北部で繁殖する鳥と、ノゴマのように中央アジア北部から東アジア北部で繁殖する鳥が知られてきました。DNAバーコードは種を識別するための手法ですが、種によっては集団の違いを識別することにも役立つことがあります。そこで、ミャンマーで越冬する鳥をカスミ網で捕獲して、血液を採取し、DNAバーコード領域の塩基配列を読み、どの繁殖地と一致するかを調べました。
2018年~2020年の11月~2月の計4回の調査で52種144羽、うち渡り鳥は10種25羽を捕獲して、採血しました。分類学的に重要な種については証拠標本として剥製にして残し、BOLD systemと呼ばれるDNAデータベースに配列を登録しました。さらにBOLD systemに登録されている繁殖地の配列と比較しました。この調査ではエゾムシクイとクロツグミがミャンマー初記録となりました。そしてこの2種は日本の繁殖集団と塩基配列が100%一致し、日本から渡ったことが強く示唆されました。逆にアリスイはヨーロッパと一致し、日本とは違っていました。BOLD systemに繁殖地のバーコードが登録されていないアカバネムシクイを除く9種の越冬鳥についてBOLD systemで比較したところ、ミャンマーで越冬する陸鳥は北欧から日本まで旧北区に広く繁殖地をもつことが新たにわかりました。
鳥を捕獲するためのカスミ網を張る
捕獲した鳥の写真を撮り、計測する
捕獲した鳥のうち分類学的に重要なものは仮剥製にした
調査
調査回数
4回
調査期間と調査地
- 2018年2月 [Bagan, Yezin, Yangon]
- 2018年12月 [Mt.Zalone, Indow]
- 2019年11月 [Kennedy Peak, 55mile village, Myaungmya, Yezin, Yangon ]
- 2020年2月 [Tanintharyi, Yezin]
捕獲種数・個体数(うち渡り鳥)
52種144羽(10種25羽)
地理的障壁を避ける渡り鳥のルート
Irwin & Irwin 2005; Siberian migratory divides: the role of seasonal migration. In Greenberg & Marra (eds) Birds of two world; the ecology and evolution of migration. Johns Hopkins Univ Press, London, pp. 27-40.より引用。
典型的なミャンマーの越冬鳥の渡りルート
Irwin & Irwin (2005) より引用
今調査で捕獲した52種のうちこの2種がミャンマー新記録種。
両種ともDNAバーコードは日本の集団と完全一致。
日本で繁殖する渡り鳥の一部はミャンマーで越冬することが初めてわかった。
まとめ DNAバーコードで一致した繁殖集団
形態だけでは曖昧だったミャンマーでの越冬鳥の由来繁殖集団がバーコードによって一部わかった。
ミャンマーで越冬する陸鳥は北欧から日本まで旧北区に広く繁殖地をもつ。