様々な自然環境
ミャンマーは日本の約1.8倍の国土が日本と同じく北緯9度53分から28度25分と南北に細長い地形をしています。
南のアンダマン海に面した半島部にはマングローブ林と珊瑚礁がひしめく常夏の浅瀬が続き、北は東南アジア最北にして最高峰5881mのカカボラジ山が雪をいただいてそびえ立っています。
多種多様な自然が存在するため、生物多様性の高い地域です。
チンドウィン川流域に広がる熱帯常緑林からなるタマンティー野生生物保護区
カチン州インドージー湖
西部のパトカイ山脈の標高の高い地域には、シイカシ林など温帯性の要素が見られます。(チン州ナマタン国立公園)
より標高が上がるとキンポウゲ科のアネモネのお花畠や高山性のショウガ科ロスコエア・アウストラレなどが見られます。
ザガイン南部に位置するアランドカタパ国立公園の落葉フタバガキ林
イラワジ川の河口域に広がるマングローブ林
マグエ地方の中央乾燥サバンナ
ミャンマー料理
ミャンマーの料理は、香辛料の使用が少なく、味付けも日本人にも好まれるものが多いようです。
主食は、ミャンマーカレーと呼ばれる煮込み料理と白米、スープと生野菜という組み合わせが一般的です。油を多用してタマネギを炒め、豚肉、鶏肉、魚などを煮込みます。多くの油を含みますが、この油とインディカ米の相性は抜群です。このほかミャンマーは様々な民族が暮らしており、地域によって独自の料理に出会うことができます。
朝食には、米粉麺を用いたモヒンガーと呼ばれるナマズなどから出汁を取ったスープ麺、オーノーカウスエというココナツミルク味のスープ麺、シィージャンカウスエと呼ばれる油まぜそばなどがあります。また、シャン州では、シャン麺という麺類があります。
ミャンマーの代表的な朝食、モヒンガー。
ココナツミルクのスープ麺、オーノーカウスエ。モヒンガーと並ぶ代表的な朝食。
シィージャン麺(ミャンマー風油まぜそば)。これも朝食によく食べる。
シャン麺。平打ちの米粉麺で、具にひき肉と野菜がのる。
シャンの揚げ豆腐。
市場の有用植物ときのこ
市場は、その国の文化の縮図です。市場に足を運ぶとその地域で利用されているさまざまな生物資源に出会うことができます。ミャンマーの市場でも多様な植物を見ることができます。季節になるときのこも市場に出回ります。
ミャンマー中央部ピンマナの市場
チン州ミンダットの市場(標高約1200 m)
ヤンゴンの市場で売られるタナカの幹 (ナリンギ・クレヌラタ、 ミカン科)。チャウッピンと呼ばれる挽臼に水を垂らして幹を粉末状にし、顔や腕など肌に塗る。
ショウガ科ヘディキウム・クリソレウクム。花が香りがよく、芳香剤、髪飾りなどに利用される。
コミカンソウ科のバッカウレア・ラミフロラ。英名を「ビルマのブドウ」という。
根を野菜として利用するオオバニラ(シャン州)
エリンギウム・フォエティドゥム(セリ科)。和名をオオバコエンドロともいう。野菜としてスープなどに入れるが、香りはコリアンダー(コエンドロ)に極めて類似する。
ヘビウリ(ウリ科)。カラスウリの仲間で若い果実をカレーやスープなどに入れる。
シロアリの巣から生えるオオシロアリタケ属の一種(シメジ科)(ピンウーレンにて撮影)
広く食用にされる菌根性きのこ。チチタケ(ベニタケ科)の一種
暮らしに役立つ動物
カワゴンドウ, Irrawaddy dolphin (Orcaella brevirostris)
クチバシがなく、スナメリやシロイルカに似ているともいわれるが、小さいながら背ビレがからだの中央部付近にある。全身茶色がかった灰色で腹側はやや明るい。マイルカ科にあって例外的に頚椎の癒合がなく、頚が柔軟なのが特徴的。口唇部が柔軟で水鉄砲のように口から水を吹き出すことができる。海棲型はインド、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、インドネシア、カンボジア、フィリピンなどで知られているが、カワゴンドウといわれるようにエーヤワディ川(イラワジ川)、メコン川などの大河にも棲息する。エーヤワディ川(ミャンマー中央部)では、魚群を追い込むことで漁民と協力することが知られている。
英名直訳でイラワジイルカともいわれる。タイプ標本はインドのヴィシャーカパトナムで収集されたとされるが、この地域は全分布域の西の端のようだ。
カワゴンドウとの共同漁業
カワゴンドウと漁業者の共同作業による漁業は、100年以上前から伝承されているといわれる。漁業者は操船者と網を操る二名一組で小舟を出して操業することが多い。
船を出すと、カワゴンドウの群を探す。群に近づくと、櫂で水面をたたいたり、舌を遊ばせて息を吐いて特有の音を出し、あるいは網繕いの先細りの木製道具(わが国では「しの」とか「スパイキ」などというようです)で、ふなべりをリズミカルにたたく音、さらには口の中で舌を振るわせ「クルッ、クルッ」とも聞こえる音を出したりすることでイルカを呼ぶ。
カワゴンドウの群は、水中で魚群を囲むように円を描いて泳ぎ、あるタイミングで尾ビレを出して合図する。船首にたって網をかかえた漁師がその合図に合わせて網を投げる。これがカワゴンドウ共同漁業だ。
Smith et al, (1997)によれば、1997年当時、ふつうの漁では一日の漁獲が4.8-8.0kgであるのに対し、イルカとの共同漁業では16.0—24.0kg、ときに64.0kgにもなることがあるとされる。この共同漁業は資源や環境の悪化で途絶えてしまう可能性が危惧されている。
今回我々は、マンダレーからエヤワディ河を約50km遡上したインダウング村周辺で観察を行った。
赤丸:インダウング村
エーヤワディ川のカワゴンドウの保全
野生イルカの現状をみると、沿岸域や河川に棲息する種や個体群は、人間活動の影響を直接にこうむる状況にあり、棲息環境の劣化が深刻である。ミャンマーのエーヤワディ川に棲息するカワゴンドウについても、個体数の減少や河川環境の劣化などが問題である。The Wildlife Conservation Society (WCS Myanmar) が1990年代初頭以来、保全にむけて基礎的な調査や、周辺住民の啓蒙などを行っており、我々もマンダレーのオフィスを訪ねて、状況を聴取したが、カワゴンドウとの共同漁業を継続しようとしている漁業者もいる反面、ダイナマイトによる漁法など禁止されている漁労活動が横行している現状など保全に向けての道は険しいと感じた。