ミャンマーの動植物調査:海生無脊椎動物
海生無脊椎動物相の調査は2017-2020年に4回、ミャンマー南部半島部沖アンダマン海に広がるミェイク(メルギー)諸島で実施されました。動物研究部の齋藤寛・藤田敏彦の2名で、それぞれの専門である軟体動物および棘皮動物を中心に調査しました。
ミェイク諸島の海
ミェイク諸島の海は熱帯の海で、サンゴ礁が発達しており様々な種類の造礁サンゴ類が見られます(写真左)。岸近くの浅い場所にはアマモ場(写真右)も多く見られます。
調査地点と調査方法
調査はスキューバ潜水とスノーケリングによって行いました。調査地点は合計62点で、そのうち30地点はスキューバ潜水で調査しました。
スキューバダイビングによる調査
スノーケリングによる調査
ミェイク諸島の海生無脊椎動物
- 1. センジュイソギンチャク(刺胞動物門花虫綱)
- 2. マベ(軟体動物門二枚貝綱)
- 3. イボベッコウタマガイ(軟体動物門腹足綱)
- 4. タルダカラ(軟体動物門腹足綱)
- 5. アオウミウシ属の1種(軟体動物門腹足綱)
- 6. ケブカガニ(節足動物門軟甲綱)
- 7. カワテブクロ(棘皮動物門ヒトデ綱)
- 8. トックリガンガゼモドキ(棘皮動物門ウニ綱)
調査結果
軟体動物・多板類(ヒザラガイ類)相
多板類(ヒザラガイ類)は背中に8枚の貝殻をもった軟体動物です。本調査により、132個体が採集され、それらは8 科15属20種に分類されました。このうち8種がアンダマン海初記録、うち3種は未記載種でした。未記載種のうちの1種を新種Leptochiton myeikensis Saito & Aung, 2021として公表しました。
ミェイク諸島で採集されたヒザラガイ類
新種Leptochiton myeikensis Saito & Aung, 2021
Maung Yin 島の水深15m から採集された1個体に基づき記載しました。この属の種は世界中から140種が知られていますが、熱帯の浅い海からは5種しか知られていません。A, B. 生時の標本、背面と腹面;C, D. 固定保存標本、腹面と側面;E. 水中写真。スケールは1 mm.
棘皮動物
棘皮動物は五放射相称の体をもつ動物です.7000を超える種がいて、ウミユリ綱、ヒトデ綱、クモヒトデ綱、ウニ綱、ナマコ綱の5つの動物群に分類されています。
これまでの調査で、クモヒトデ類が最も多く採集されました。特に、トゲクモヒトデ科が多様性に富むことが明らかとなり、未記載種も見つかっています。日本との共通種も多く、数多くの個体が採集されるニシキクモヒトデは、刺胞動物のヤギ類にからみついて生活していることが知られています。遺伝的な比較を行ったところ、アンダマン海と日本南方の個体は同一種であり、地理的な遺伝的差異が非常に小さいことが明らかとなりました.
とても体が長いナマコ類として知られるオオイカリナマコについては、16,410 bpのミトコンドリアゲノム全長配列を明らかにしました。ミトコンドリアゲノムからも、イカリナマコ類とクルマナマコ類は姉妹群であり、これらを含む無足類の単系統性が示唆されています。
トゲクモヒトデ属(トゲクモヒトデ科)の未記載種
ヤギ類(刺胞動物)の上で生活するニシキクモヒトデ(トゲクモヒトデ科)。1つの群体に多数のニシキクモヒトデがからまりついている。
オオイカリナマコ