地学

ポパ火山のマグマ研究

ポパ火山

 ミャンマーは日本と同じように、プレート同士が衝突する境界部に位置しており、火山と地震が多い国です。最近、ミャンマーでの地質調査が精力的に行われ、中央部に3つの第四紀火山(ポパ、モンユワ、シング)が存在すること(図 1)、最大のポパ火山は1万年以内に噴火した活火山であることなどが分かってきました(図 2)。

Simplified geologic map of Myanmar

図 1.ミャンマーの簡易地質図。水色線は、ミャンマーの地下深部へ沈み込む海洋プレート上面の深度。

Popa volcano

図 2.ポパ火山

火山形成史の解明

 ミャンマーの地下深部には、ベンガル湾沖から沈み込んだインドプレートが存在し、ポパ火山の下では120kmを越える深度があります(図 1)。これは、日本において太平洋プレートが日本海溝から東北地方の下に沈み込んでいる状況と同じです。このプレートの沈み込みがマグマをつくり、マグマが何回も噴火することにより、島弧火山とよばれる成層火山がつくられています。ポパ火山の成層火山の形成史は不明でした。そこで、新たに地質調査、年代測定、岩石の記載を行いました。 その結果、約300万年前の堆積層(イラワジ層)を境として、1000~2000万年前に形成した古火山体と、96万年前以降に活動した新火山体とからなることが分かりました。さらに、新火山体は、下位の台地期(96~65万年前)と上位の成層火山期(33万年前以降)に区分されることも分かりました(図 2)。

Geological map and stratigraphy of Popa volcano

図 3.本研究で明らかになったポパ火山の地質図および層序と年代。

マグマ成因論

 採取した火山岩について、記載、全岩化学分析、鉱物化学分析、ストロンチウム−ネオジム同位体比分析を行った結果、成層火山の主要部分は「アダカイト質」という特殊な火山岩からつくられていることが判明しました(図 4)。アダカイト質火山岩(以降、アダカイトと略)とは、通常の島弧火山岩に比べて高いSr/Y比を持つ岩石です(図 4A)。このような火山岩は、西アリューシャン列島やアメリカ合衆国西部のセントヘレンズ火山をつくっています。アダカイトという用語は、この特徴を持つ火山岩が最初に記載された西アリューシャン列島のアダック島にちなんで名付けられました。

Chemical characteristics of Popa volcanic rocks

図 4.ポパ火山岩の化学的特徴。(A)は、ポパ火山岩がアダカイト化学成分の領域に存在していること、(B)は、ポパ火山岩が通常のアダカイトと異なる同位体比を持つことを示している。

 アダカイトは地球深部に沈み込んだ海洋プレートが溶けたものであると提案されています(図 5A)。ところが、ポパ火山のアダカイトは通常のアダカイトに比べて低いネオジム同位体比(143Nd/144Nd)を持つという例外的特徴がありました(図 4B)。従って、ポパ火山のアダカイトは通常のアダカイトとは異なると結論づけました。

 ポパ火山のアダカイトは沈み込んだ海洋プレートから出てきた水が付け加わったマントルが融けてできたことが分かりました(図 4B)。海洋プレート起源の水は、低いネオジム同位体比を持つからです。そして、このマグマが地下深部のマグマ溜まりで分化してアダカイトマグマとなったと主張しました。

Magma genesis of (A) normal adakite magma and (B) Myamnar (Popa) adakite magma

図 5.(A)通常のアダカイトと(B)ミャンマーのポパ火山をつくるアダカイトのマグマ生成メカニズム。