ハナンダー洞穴出土の動物骨標本
2008年3月7日更新
沖縄県南城市に位置するハナンダー洞穴からは、2006年11月の発掘調査によりリュウキュウジカを中心とした多数の動物骨が出土した。今回、出土したリュウキュウジカおよびリュウキュウムカシキョンの下顎大臼歯を用い、主に大臼歯の咬耗(図1)から年齢推定を行い、齢構成の復元を試みた。リュウキュウムカシキョンについては、現生キョンにおける大臼歯咬耗スコアと月齢の関係を示した先行研究(Chapman et al., 2005)のデータを用い、これに基づき第三大臼歯の咬耗スコアから月齢を推定した。リュウキュウジカについては、まず月齢既知の現生ニホンジカ(伊豆半島産)標本を用い、月齢と第三大臼歯歯冠高の回帰直線の傾きを算出した。この傾きをもち、x切片をリュウキュウジカの未咬耗歯冠高とする関数を求め、これにリュウキュウジカの歯冠高を代入することで月齢を推定した。臼歯の萌出・交換段階から齢推定した標本を合わせ、リュウキュウムカシキョン17標本、リュウキュウジカ30標本から、それぞれについて齢構成を得た(図2)。
遺跡出土動物遺体の齢構成は、それが人類の狩猟活動によって集積された場合、若獣が主体になるという特徴を持つ。また現生種の生態学的研究から、狩猟下の集団は非狩猟下の集団よりも平均寿命や最長生存年数が短く、齢構成は若齢に偏ることが明らかとなっている。リュウキュウムカシキョンの最高齢は9才(111ヶ月)で2〜5才の若獣が見られなかったことから、人類の狩猟活動による集積の可能性は低いと考えられた。
一方、リュウキュウジカの最高齢は23才(284ヶ月)で、これは保護下にある奈良公園のニホンジカの最長生存年数に匹敵していた。狩猟活動のあった縄文遺跡出土ニホンジカと比較して、リュウキュウジカでは3〜7才の若獣が極めて少なく、リュウキュウムカシキョン同様、狩猟活動による集積とは考えにくかった。また現生の非狩猟下にあるニホンジカ集団と比較しても、リュウキュウジカの齢構成はかなり高齢に偏っていたことから、狩猟の影響がなかったことが示唆された。この結果は、四肢骨などに人為的と断定できる損傷がなかったという事実とも矛盾しない。
図1. リュウキュウジカの左下顎第三大臼歯。 未咬耗標本(左端)、および咬耗が進行した 標本(中央、右端) | 図2. リュウキュウジカの齢構成 |
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